コモディティは、その代替性の高さと用途の広さから、人々の生活のほぼすべてに浸透しており、世界はコモディティがいつでも入手できることを前提に動いている。しかし、気候変動が進み、問題を食い止めるための取り組みが勢いを増すにつれ、この前提ははさまざまな形で影響を受けることになろう。その中には見た目にも明らかなものもあれば、そうでないものもある。
気候変動リスクは、大まかに2つの方法で測定される。1つは物理的リスクで、工場や施設を危機にさらす海面上昇や、作物の収穫量に影響を与えうる気温上昇などがある。もう1つは炭素を排出しない経済への移行に伴うリスクで、消費者のし好変化、規制の変更、法的問題、新しいテクノロジーなどが挙げられる。
気候変動がコモディティに与える影響をすべて明らかにするには、かなり長い説明が必要になる。そこで本稿では、主なコモディティに対する需要と供給の影響を分別することに焦点を当てたい。どちらにとっても、気候変動の影響は、物理的なチャネルと移行に伴うチャネル双方を通じてもたらされる。
需要サイドの影響
炭素排出削減に向けた世界の動きが加速する中、コモディティの世界で注目されている1つの分野は石炭及び化石燃料である。簡単に言えば、大量に炭素を排出する燃料に世界が背を向けるのに伴い、これらのエネルギー源に対する需要は着実に減少するとみられる。このプロセスにより、高コストの生産者がいずれ市場からとう汰され、実質的な価格や収益性が低下することになりそうだ。
その一方で、需要の移行期には脱炭素化を可能にする資源への需要が増加するため、恩恵を受けるコモディディもありそうだ(図表1)。例えば、低炭素社会への移行に欠かせないリチウムや銅などの工業用金属は、石油需要が頭打ちになっても需要が拡大すると思われる。世界はこれらの金属をより多く必要とするようになるため、買い手は高コストの供給源を求めざるを得なくなり、価格に上昇圧力がかかる可能性がある。
コモディティ需要の変化には、炭素排出削減に向けた各国の合意、規制環境、移行を支える財政的コミットメントなど、多くの要因が関わっている。消費者のし好変化も根本的な需要変化につながり、気候変動に配慮した製品が好まれるようになりそうだ。
例えば、大豆の世界的な消費者である食品メーカーやタンパク質メーカーは、サプライチェーンが環境に与える影響に対する関心を深め、森林破壊の対象となっている地域から大豆が調達されていないことを示す証明を求める姿勢を強めている。彼らは気候変動への影響を回避するため、サプライヤーを変更したり、コスト上昇を受け入れたりすることもいとわない。
短・中期的には、石炭や石油のように汚染源となるコモディティでも、需給はタイトに推移する見通しだ。その理由の1つとして、化石燃料の需要減少を上回るペースで、化石燃料業界から資本が全般に引き揚げられていることが挙げられる。原油や天然ガスなど供給が最も急速に減少しているコモディティでは、そのプロセスが価格を押し上げる可能性がある。
また、クリーンエネルギーへの移行に対する投資も、化石燃料の需要を支えるもう1つの柱となりそうだ。クリーンエネルギーへの移行には大量の鉄鋼やセメントが必要となり、そのプロセスで炭素が排出されるからだ。重量があるこれらの資材を移動するには大量のディーゼル燃料も必要となる。
さらに、気温上昇や海面の上昇から工場やサプライチェーンを守るために必要な設備投資も含めれば、建築資材の需要が大きく伸びる可能性がある。
供給サイドの影響
供給サイドの視点からは、環境保護に対する関心の高まりを受けて、コモディティ生産にかかわる資本コストと事業コストがどちらも上昇していることが大きな移行リスクとなっている。例えば、コモディティ生産者の炭素排出に課税する地域が増えており、これらの税負担は増加の一途をたどっていきそうだ。
米国では過去に規制が後退したことがあるが、資源保護を目指した規制は強化されつつある。例えば、チリでは、先に制定されたアルゼンチンの法律に倣い、氷河保護法の制定に向けた取り組みが続いている。この法律では、地形の広範なリストを作成し、アンデス山脈での大規模な銅の採掘プロジェクトなど、環境に悪影響を与える活動が禁じられるとみられる。多くの企業は炭素排出量を削減するため、コストがかさみがちな機器のアップグレードや交換を迫られる可能性に直面している。
規制環境が一段と厳しくなっていることは、今後も供給コストの上昇につながりそうだ。欧州の炭素規制(提案中のものを含む)は、一部の動物性タンパク質の価格を最大で41%押し上げる可能性がある*。環境破壊に対する罰金や罰則は企業のリスクを高めている。米国の司法省と環境保護庁は2020年に、ある集中動物飼養事業に対し、水質浄化法に違反したとしてこの分野では過去最高となる300万米ドル近い罰金を科した。
気候変動の物理的リスクは農業にも膨大な影響を与えている。農業は土地利用の変化や炭素排出を通じて気候変動に影響を与え、気候変動が今度は農業に影響を与える。農作物の生産性(図表2)は気温の上昇や異常気象に大きく左右される。実際、最近は異常気象がカナダ、オーストラリア、中国、ロシア、ウクライナにおける小麦収穫に同時に影響を与えている。生産者は穀物の生産場所や生産方法を調整できるかもしれないが、それでもコストは上昇することになる。
熱波、干ばつ、病気などがコーヒーやカカオの生産者に影響を与えている。気候変動が激しさを増すのに伴い、これらの作物にとって栽培に適した土地が減りつつあることが数多くの研究で示されている。生産者は干ばつに強い作物の栽培を検討しているが、彼らへの圧力は高まっている。例えば、コートジボワールとガーナは世界のココアの約60%を供給しているが、森林伐採率の高さが今後の供給見通しに影を落としている。
コモディティに与える影響がさほど明確になっていない物理的リスクもある。ライン川では最近、過去最大級の洪水が発生したが、ドイツの重要な水路であるライン川の水位が過去数年にわたって低下しているため、バージ(河川や水深の浅い海で貨物を運搬する小型船)の運航が制限され、化学製品の生産や供給に支障が生じている。同様に、メキシコ湾では熱帯性暴風雨が激しさを増していることで、石油生産及び精製や、低地における化学・液化天然ガスの生産が脅かされている。
電力供給に欠かせない鉱業セクターでは洪水が大きな問題となっており、熱帯及び亜熱帯地域の露天掘り鉱山は豪雨に見舞われる頻度が高まっている。この問題は特にオーストラリアやインドネシアの石炭鉱山で深刻で、生産に支障が生じ、価格上昇の動きが広がる可能性がある。
全体像の把握
気候変動がコモディティ及びコモディティ関連の発行体の財務状況に与える潜在的な影響を把握するには、徹底的なファンダメンタル分析や、場合によっては、表面には明確に現れていない可能性のある要因を探る創造的な作業が必要となる。
また、コモディティは世界の至るところに広がっているため、気候変動の影響は極めて広範囲に及び、数限りない産業のサプライチェーンに影響を与えている。動物性タンパク質の生産者が炭素排出を抑制する上で移行コストの上昇に直面していると前述したが、家畜を飼育するために必要な穀物に及ぼす気候変動リスクは穀物価格の上昇を招き、事業コストをさらに押し上げることになる。
サプライチェーンに携わるそれぞれの関係者は、可能な限りコスト上昇分を顧客に転嫁しようとするだろう。そのため、サプライチェーンの終着点にいる消費者は、一部のエネルギー源や食料品、他の重要な製品やサービスについて、さらなる価格上昇に直面する可能性がある。これらの動きは、投資の意思決定や日々の消費行動に影響を与えることになるだろう。
* Céline Bonnet、Zohra Bouamra-Mechemache、Tifenn Corre 「An Environmental Tax Towards More Sustainable Food: Empirical Evidence of the Consumption of Animal Products in France」 Ecological Economics 147(2018年5月):48–61
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