投資家や企業が気候変動リスクに対処しようとする動きが強まる中、ネットゼロ排出を実現する手段としてカーボンオフセットを利用することについての議論が高まっている。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は、企業がベストプラクティスに従う限りにおいて、カーボンニュートラルを達成するためオフセットを使う余地があると考えている。
オフセットがどのようにネットゼロ排出に貢献できるのか(貢献できることがあるとして)については、意見が分かれている。京都議定書を皮切りに、各地域の主導者たちは、世界の市場の標準化を目指す足がかりとしてオフセットを奨励してきた。しかし、一部の人々は、根本的な問題を解決しないままオフセットを利用して気候変動対策に関する実績を誇示できる「都合の良いカーボンニュートラル」への懸念を強めている。
オフセットには多くの長所や短所があるが、ABは、投資家や企業がカーボンニュートラル目標を達成するため多少のオフセットを利用することには大きな意味があると考えている。また、最近開催された第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)で「第6条」が最終決定されたことから、特にオフセットの規制と市場に関する議論や関心がさらに高まることが予想される。
オフセットはカーボンのバランスシートを「相殺」するのに役立つ
オフセットは気候変動との大きな戦いにおいて、小さいながらも効果的な武器となる。オフセットの目的は、企業や他の組織が排出する温室効果ガスの排出量を相殺するため、各地で取り組まれた排出量削減分を購入、支援、または資金提供することを認めることである。一般的に、オフセットはクレジット(排出権)の形態を取っており、1単位が1トンのCO2削減に相当する。そのクレジットは、コンプライアンス(「キャップ・アンド・トレード」としても知られている)市場とボランタリー市場と呼ばれる2つの異なる市場で自由に取引されている。
コンプライアンス、つまり強制的な市場では、高額の罰金を避けるために排出量を制限内に抑えている事業者にオフセットクレジットが発行される。ネットゼロ排出へのコミットメントが増えるのに伴い、コンプライアンスオフセット市場は、それぞれの目標を反映した名称が付いた幅広いクレジットに拡大している(図表1)。
「ネットゼロ」への長い道のりではオフセットも推進役に
「2050年までにネットゼロ」を目指すコミットメントが多くのセクター、業界、地域で広がる中、ABはすべての企業や投資家の計画にとってオフセットが果たすべき役割があると考えている。しかも、多くの企業は、オフセットなしで排出量をネットゼロにするための実行可能な手段を持っていない可能性があり、その困難な問題は世界の主導者たち、政府の政策、科学によって認識されている。実際、パリ協定の第6条は、オフセットを盛り込んだ世界的なカーボン市場の創設を掲げている。
ABはコロンビア大学地球研究所とのパートナーシップを通じ、科学界のリーダーや学者らの間でもカーボンオフセットに対する支持が広がっていることを把握しており、それはカーボンオフセットが気候変動との戦いにおいて企業に効果的な武器を提供していることを裏付けている。仮に協定が長期的な気温上昇幅を産業革命以前の水準から1.5度に抑えるという大きな目標を達成できなかったとしても、企業はオフセットの助けを借りて、独自に「ネットゼロ」の目標を達成することができる。
ABはアクティブな投資家として、価格設定が透明で流動性のあるオフセット市場は、ポートフォリオや企業レベルでの投資判断に利用できるシグナルを発することが可能だと考えている。つまり、企業によるオフセットの利用(または利用していないこと)は、彼らが気候関連のリスクや機会をどれだけ真剣に管理しているかを示すリトマス試験紙となる。
企業がオフセットのために支払う金額は特に重要で、アクティブな投資家の調査プロセスに大変重要な情報を提供している。それはさらに、発行体、ステークホルダー及びバリューチェーン全体の成果を改善しうる取り組みを促す効果もある。例えば、オフセットは、裕福な炭素排出者からより純粋なオフセット活動を行っている分野への着実な収益の移転フローを生み出すため、広範な影響を与える可能性がある。これは一般的に、炭素削減の取り組みを最も必要としている多くの農村や貧困地域に恩恵をもたらしている。
ベストプラクティスを通じて好ましい影響をもたらす
理論的に見て、カーボンオフセットは善意のグリーン投資手段である。しかし、その範囲は多岐にわたっており、多くは目標を満たしていない。ABの経験では、投資家のパフォーマンス改善に必要なデューデリジェンスに役立ちうる6項目のベストプラクティスを重視してきた。
- 適度な活用: オフセットは長期的なネットゼロ排出戦略を補完するもので、中心に据えるべきものではない。その場合でも、再生可能エネルギーや、排出量を75~95%削減できるエネルギー効率の向上及び近代化など、最も高い効果があることがデータで示されている分野に集中するのが望ましい。一方、炭素回収・貯留のオフセットについては、厳しい監視を受ける分野であるため、かなり慎重に進める必要がある。
- 外部機関による質の認証を利用: オフセット市場の質を監視する能力を備えた投資家はほとんどいない。オーストラリア・カーボン・ファーミング・イニシアティブやカリフォルニア州大気資源局のような国家、準国家、または州の機関による認証やガイダンスを利用すべきである。国際的なオフセットでは、ゴールド・スタンダードや世界自然保護基金のような非営利の認証機関も高く評価されている。
- 価格に注目: クレジットのコストはかなり範囲が広いため(1トン当たり0.20~0.50米ドル)、価格は重要かつ有用な要因であり、必ずしも安ければ良いというわけではない。実際のところ、低コストのオフセットを大量に購入するだけでは、さほど大きな効果は得られず、不誠実だとみなされる可能性がある。その意味では、オフセット価格の前提条件や算出方法に関する透明性も重要である。質が高ければコストも高くなるかもしれないが、投資家の需要がいずれは生産性の高いオフセットに集まり、価格が大きく上昇する可能性もある。
- 自然をベースとしたオフセットが望ましい: オフセットの最も直接的な方法は植林や自然生息地の保護、炭素排出の削減で、特に森林破壊の防止が効果的である。炭素を「隔離」するプロジェクトも有効で、それは農作物や牧草に使われる土壌や、地球表面の70%を占める海洋環境で実施できる。例えば、「ブルー・カーボン・イニシアティブ」は、沿岸地域を対象に、海草地やマングローブを再生させる活動を行っている。
- コンプライアンス(強制的)オフセット市場を重視する: ボランタリー市場では企業が排出目標とその成果を自発的に掲げるが、コンプライアンス市場では結果が公に認証される。いずれは、規制当局、監査人、投資家がボランタリー市場に対する監視を強め、2つの市場を統合する環境が整うと思われる。今のところは、コンプライアンス市場の価格安定性が優れており、2つの市場が統合に向かい始めれば潜在的な成長力の面で優位性がありそうだ。
- プロジェクトへの直接投資を探る: 多くの企業がオフセット分野で収益性の高いビジネスを開発するため専門分野を活用している。例えば、ニュージーランドの企業4社は耕作限界地に植林するため提携し、政府のコンプライアンス市場でオフセットを提供するコストを削減している。同様に、オーストラリアを拠点とする石油・ガス会社では、地質・開発チームが採掘地ごとにオフセットを生産するアプローチを進めている。
ABは現時点におけるオフセットの限界を認識しているが、オフセットは気候変動問題に取り組む上で小さな役割を果たすことができる。オフセットは中核をなすものではないが、完全な計画を支える重要な要因であり、特に鉱業、工業、エネルギー分野では、オフセットなしではネットゼロへの現実的な移行はできないと思われる。また、企業の成功を左右するあらゆる要因と同じように、ベストプラクティスに目を向けた積極的な分析は、どのカーボンオフセットが意義ある形で排出量を削減するのに最も効果的であるかを判断する上で役立ちうる。
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