中国にとって、2022年は政治的にも経済的にも特に重要な年である。2月の冬季オリンピックに始まり、10-12月期に予定されている中国共産党第20回全国代表大会まで、習近平主席の言葉を借りれば、「世界中の目が中国に向けられている」のである。これは、パンデミックにより複雑化した中国の財政、環境及び経済政策目標が細部まで精査されることを意味している。以下では、虎の目を見据えた奥に見えてくるものを論じていく。

ゼロコロナ政策によるオミクロン対応

2021年12月中旬以来、中国では新型コロナウイルス感染者数の再度の感染拡大が国の経済を混乱させ、さらにそれが世界に波及するという懸念を引き起こした。現在の中国における感染拡大は、米国や英国に比べれば相当落ち着いた状況ではあるが、中国のゼロコロナ政策の下、大規模検査が実施され、感染が確認された地域ではロックダウンが実施されている。2020年にこの方針が導入されて以来、この政策は感染拡大の規模と期間の抑制に効果を発揮し、オミクロン株の国内侵入を含むウイルス蔓延の阻止に寄与している。しかしながら、従来、世界最大規模の人の移動をもたらしていた春節の旅行と北京冬季オリンピックは、中国にとっての難題となる可能性がある。

中国経済への影響を理解するために、アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は、パンデミック開始時点からの中国における新型コロナウイルスの感染拡大状況と経済指標を比較した。2020年冬及び2021年夏の感染拡大は、経済活動、特にサービスセクターに大きな影響を与えた(図表1)。しかし、より直近のデータを見ると、感染者数に大きな違いはないにもかかわらず、経済活動への影響は小さくなっている。これはなぜだろうか。

経済活動に対する新型コロナウイルス感染拡大の影響は縮小しつつある.png

理由の1つとしてワクチン接種が挙げられるだろう。2021年7月時点では60%だったワクチン接種率が現在は90%に近づく中、家計のリスク回避性向が低下している可能性がある。また、高いワクチン接種率とパンデミックに対する経験の蓄積により、地方政府がより穏健な感染拡大防止措置を講じられるようになり、消費への悪影響が抑えられる結果となったのかもしれない。

とは言え、現在の新型コロナウイルスの感染拡大は、短期的には消費に影響を与え、中国経済の潜在的なダウンサイドリスクとなりうる。しかし、ABは、中国政府が2020年初頭に行ったような全国規模のロックダウンを実施するとは想定しておらず、したがって、その影響はコントロール可能なものになると考えている。

意志あるところに道は開ける:北京をあなどってはいけない

さらに、中国政府は、2022年の安定的な経済成長は不可欠であるという明確なメッセージを打ち出している。これは、政策決定者が、パンデミックによる下方圧力を打ち消すために公共投資を加速し、経済の成長と安定を図るであろうことを意味している。

ABは、中国政府がその新たな政策パラダイムにおいて、国内総生産(GDP)の成長を重視しなくなったという見方は誤りだと確信している。中国の政策パラダイムは、従来の成長一辺倒から、財政の安定化や環境など多様な目標を掲げるものに変化しているが、安定的な経済成長は依然として最も重要な要素である。

したがって、市場関係者は、中国経済の成長軌道を維持することに対する政府の決意を過小評価している可能性があり、多くの市場関係者は中国の2022年GDP成長率はその潜在的成長力を大きく下回るとの予想を出している。ABはこの見方に異議を唱える。ABは、成長率は5.3%となり、消費者物価指数はやや高めではあるが依然穏やかな上昇を見せると予想する。

言い換えれば、ABはゴルディロックス経済を予想している。しかし、これはABの予想がおとぎ話に基づいているという事ではない。中国政府は過去数年にわたり、政策決定者の意のままに、成長の速度を早くも遅くもできることを証明している。彼らは、過熱した高成長も、潜在力以下の低成長も、そのいずれも目指す理由がない。

向こう数年、成長目標はフレキシブルなものになるかもしれないが、健全な成長は、引き続き中国の共同富裕計画にとっての最重要課題である(以前の記事『「共同富裕」を目指す中国の未来』ご参照)。一人当たり所得の増加は、共同富裕を達成するための条件の1つ(もう1つは所得の不均衡の縮小)である。これに基づき、習主席は、2035年までに所得を倍増するという目標を設定した。そして、第14次五か年計画期間における平均およそ5.0%から5.5%の安定したGDP成長は、所得増加を可能にする。これら全てを勘案すれば、2022年の成長が5.0%以下となる可能性は非常に低くなる。

ABの2022年成長予想は、3種類の要素によって決まる。

1. 輸出モメンタム及び民間投資や家計支出等の国内の有機的ドライバー:これらの領域における回復が予想より遅れることは、ABの予想に対する最大のダウンサイドリスクとなる。グローバル経済の成長が減速傾向にあることは、2022年の輸出モメンタムの制約要因となるかもしれず、産業界の需要拡大が穏やかな中、企業にとって民間投資を有意に増やすインセンティブは限られるだろう。さらに、現在のコロナウイルスの感染拡大により、消費の成長をパンデミック以前の水準に戻すための前提条件である家計貯蓄率(図表2)の正常化を2022年に達成することは、より難しくなっている。

家計消費は回復基調を示している.png

2. 政策ショック:近年、中国政府は財政安定化及び環境重視を目標に政策を策定しており、その結果、不動産及び製造業の成長には制約が課せられる状況になっている。住宅販売において安定化の兆しがいくらか見られるものの、ABは、2022年の不動産セクターは引き続き軟調であると予想している。ただし、中国では経済成長率に対する住宅セクターの寄与度は近年構造的に低下しており、不動産業界の力強い回復に頼る必要性は少なくなっている。

重要なポイントとして、中央政府の政策目標が足元の経済成長に想定外の悪影響をもたらした場合、政府は、1つの目標に執着して他を犠牲にするのではなく、(ここ数カ月そうしてきたように)全体の政策バランスに沿った形でそれぞれのセクターの回復を微調整するだろう(以前の記事『中国の成長見通しの全容』ご参照)。安定的な成長が特に重視される一年になるとすれば、政府は緊縮効果を持つ政策の実施を見送る可能性が高い。

3.中国にとって最大の政策手段である広範な財政政策には発動余地が十分残されている。

安定的成長確保のための関連政策

ABは、中国政府が2022年の安定的成長を促進するため、広範な財政政策とともに、金融政策による支援及び安定化に焦点を当てた住宅政策を講じると予想している。ここでは、それがどのように展開していくかを論じる。

まず、ABは、公共投資のペースが今年の早い時期に急加速すると予想する。中央政府は既に、公共投資の主要な原資である地方政府債の2022年発行枠のうち1.46兆元(2,292億米ドル)を州政府に割り当て、野心的なインフラプロジェクトへの投資活性化を図っている。

このような拡大的財政政策は、金融政策の支えを必要とする。これには、力強い与信の拡大と穏やかな政策金利が含まれる。ABは、中国人民銀行(PBOC)は、2022年1月の単発と思われる政策金利切り下げ後は、実体経済の借入コストを固定するために、年内は政策金利をやや低めの水準から変更しないと予想する。

(金利ベースの金融政策フレームワークへ移行する中で、政策金利は、中国の金融政策姿勢を評価するための鍵となった。市場金利を固定する手段としての政策金利の役割は強化され、政策金利が銀行貸付金利に波及する度合も強まった。)

ABは、与信の拡大も、PBOCの中間目標値である名目GDP成長率におおむね沿った水準で、引き続き堅調に推移すると予想する。これを実現するために、中央銀行は、中小企業、製造業の向上及び脱炭素化を支援するためのいくつかの構造的金融政策ツールを有している。全体として、ABは、対GDP債務比率が、パンデミック以前の3年間に比肩するペースで増加すると予想する。

2022年の住宅政策はセクターの強化より安定化を重視するというのがABの見解である。これは、適切な住宅需要に対応するための住宅ローンの規模の安定化(図表3)及び不動産開発業者に対する銀行融資の回復傾向を指し示している。

中国の住宅ローン規模は、近年安定化している.png

中国政府は近年、住宅関連規制において、住宅バブルの引き締めと安定した価格維持のための短期的規制と、賃貸市場の開発、土地制度改革、財政レジーム改革、固定資産税、住宅ファイナンスに関する堅実な政策等の長期的メカニズムの構築という、反対に作用するかのような政策を異なる時間軸で組み合わせている。その目指すところは、健全で投機性の低い住宅セクターの実現である。

全国的には、上述のような住宅政策方針にのっとり、広範かつ大規模な緩和が行われる可能性は低い。しかしながら、住宅価格が下落した地方都市では、地域レベルにおける政策の微調整が行われるかもしれない。これは、最初の住宅を購入する者(及び住環境を向上させるために2軒目の住宅を購入する者)への需要を喚起し、不動産市場の崩壊を防ぎ、寅年における中国全体のGDP成長の足かせを減らすことになるだろう。

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