環境・社会・ガバナンス(ESG)債と名が付いた債券を発行する企業が、以前よりもさまざまな業界に広がっている。こうした資金調達手法は、より環境に配慮した世界に移行する上で重要な役割を果たすとみられるため、歓迎すべき動きである。だが、ESGの名を冠した債券がすべて同じわけではない(以前の記事『進化するESG債市場(2022年2月)』ご参照)。本当に将来の環境改善に役立つプロジェクトに資金を提供するためには、投資家は実質的なものと形式的なものを見極める必要がある。
 

ESG債の発行が爆発的に拡大

2021年にはESGの名が付いた債券の発行が急増し、過去最高に達した。地域別では欧州がトップの座を維持したが、新たな地域でもこうした資金調達構造が急速に広がった。種類別では特定のプロジェクトに資金を提供するグリーン・ボンドが引き続き圧倒的に多かったが、最も急ピッチで拡大したのは、特定の主要パフォーマンス指標(KPI)を掲げたソーシャル・ボンド、サステナビリティ・ボンド、サステナビリティ連動債の発行だった(図表)。
 
ESG関連の社債発行が急増.png
 
発行体の範囲も広がっている。最近までは、ESG債を発行するのは主に投資適格級の発行体に限られていた。しかし、2021年には米ドル建て、ユーロ建てとも、非投資適格級の企業による発行が4倍に急増した。しかも、ESG債は多くの業界に広がり、ユーロ圏では化学、消費財、金属、鉱業のセクター、米国では自動車、化学、通信のセクターなどで、初めてESG債を発行する企業が現れた。調達資金の使途やプロジェクトの範囲も拡大している。
 

ESG債はさらに力強く拡大する見込み

ESGの名が付いた債券は今後も急速な発行の拡大を持続できるのだろうか?アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は3つの理由から可能だと考えている。第一に、ESG要因が資本コストに影響を与えているため、ESGに関する強力なガイドラインを取り入れる投資家が増えている。第二に、企業にとってESGは戦略的な優先課題となっている。公開されている決算報告書や会議の説明資料に関する自然言語処理分析に基づけば、投入コストの上昇、サプライチェーン問題、労働力不足と並び、ESGは企業の役員室で最もホットな話題の1つとなっている。それは驚くには値しない。なぜなら、第三点として、投資家は企業のサステナビリティ目標に対する監視の目を強めており、企業は絶えずレベルの引き上げを求める圧力にさらされているからである。
 
その結果、多くの業界が将来の変化に対する野心的な目標を掲げるようになった。例えば、鉄鋼業界は2030年までに商業規模のグリーンスチール施設を20カ所に建設する計画で、2050年までに排出量ネットゼロの実現に向けた道を切り開いている。セメントやコンクリートの主要メーカー40社は、2030年までに排出量を25%削減し、2050年までに排出量ネットゼロを実現すると約束している。航空関連企業やその大手顧客企業80社は、2030年までに世界のジェット燃料需要に占めるグリーン燃料の比率を10%に引き上げる(現在の1,000倍に相当)ことで、年間6,000万トンの二酸化炭素を削減し、30万人分のグリーン雇用を創出しようとしている。
 
野心的な目標は新たな資本を必要とするため、彼らにはESGを重視したデットファイナンスが適している。それは、ESGを掲げた債券市場の急速な成長が続くことを示唆している。
 

ESGを掲げた債券は選別が必要

新たなESG関連証券の発行が増えるのに伴い、投資家にとっては、それらを評価する規律あるフレームワークを用いることが重要になる。ABは、単に環境や社会に配慮するジェスチャーを見せるだけで実質的なインパクトをもたらさない債券は、長期的に良好なパフォーマンスは期待できないと考えている。債券の設計(起債目的や資金使途)は価格と同じくらい重要な意味を持つ。
 
債券投資家が最初に確認すべき点はマテリアリティ(重要性)である。グリーン・ボンドで調達した資金の使途は、発行体の事業や業界にとって重要な意味を持つのだろうか?サステナビリティ連動債のKPI目標は、会社全体の著しい改善につながるのだろうか?資金の使途やKPIが、企業のごく一部しかカバーしていない事例が見受けられる。それとは対照的に、フォルシア社が発行したグリーン・ノートは、持続可能なモビリティという同社の中核的使命と完全に合致しており、その資金の使途は、水素駆動の輸送手段に事業を多様化するという同社の野心を支えている。
 
グリーン・ボンドの発行体は、気温上昇幅を1.5度以内に抑えることや、大半の関連スコープ(ほとんどの業界ではスコープ3を含む)でネットゼロの炭素排出量を実現するための移行プロセスの採用といった会社全体の基本的なコミットメントとともに、グリーン・ボンドのフレームワークやコーポレート・プランを示さなくてはならない。自動車メーカーや公益事業会社など一部のセクターでは、電気自動車への移行スケジュールの策定など、独自の気候変動対策に取り組んでいる。社会的な側面では、現代奴隷に関するリスクを軽減するための行動指針を模索している。
 
野心的な目標を持たないサステナビリティ連動債の構造は、概して魅力がない。KPI 目標の中には、あまりにも一般的で、がっかりするほど控えめなものもある。このような場合、投資家は、ヘンケル社が掲げているような、具体的な目標や野心的なKPIを設定するよう求めていく必要がある。ヘンケルのKPIは具体的で、スコープ3排出量を含み、5年という短い時間軸を定めるなど、事業全体にわたって容易に測定可能な目標が設定されている。同業他社との比較は、発行条件がベストプラクティスを基準にできるかどうか、KPIが十分に野心的なものであるかどうかを判断する一助となり得る。
 
KPIの時間軸と、パフォーマンスが悪かった場合のペナルティについても考慮することが重要である。KPI目標を達成できなかった発行体は通常、ESGに関するネガティブな成果を受けて債券価格が下落する可能性があるため、クーポンを引き上げなくてはならない。しかし、投資家は、クーポンの引き上げで目標未達によるマイナス効果が十分に補なわれるかどうか、またKPIの期限が切れる前に引き上げられた十分なクーポンを受け取ることができるかどうかを精査する必要がある。現時点では、ペナルティがバックエンド型で、ステップアップが限定される仕組みがあまりにも多く存在している。投資家が真の意味でグリーンな未来を求めているとすれば、安易な仕組みや限定的なペナルティを排除しなくてはならない。
 

エンゲージメントがカギを握る

債券の発行体は定期的な資本調達を必要としている。ESGの問題や債券の構造について企業や引き受けを行う証券会社と対話することで、投資家はどんな目的やKPI目標がベストプラクティスを反映しているかについて、明確に把握することができる。たとえ目先の債券発行で企業が受け入れ可能な条件を設定しなかったとしても、継続的なエンゲージメントプログラムを通じて、将来的に発行条件を改善することができる。
 
グリーン・ボンドやESGの名が冠せられた他の債券は、グリーンな未来を作り出す上で非常に重要な役割を果たすと思われる。それが予定どおり実現するかどうかは投資家の行動にかかっている。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
オリジナルの英語版はこちら

本文中の見解はリサーチ、投資助言、売買推奨ではなく、必ずしもアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)ポートフォリオ運用チームの見解とは限りません。本文中で言及した資産クラスに関する過去の実績や分析は将来の成果等を示唆・保証するものではありません。

当資料は、2022年3月3日現在の情報を基にアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーが作成したものをアライアンス・バーンスタイン株式会社が翻訳した資料であり、いかなる場合も当資料に記載されている情報は、投資助言としてみなされません。当資料は信用できると判断した情報をもとに作成しておりますが、その正確性、完全性を保証するものではありません。当資料に掲載されている予測、見通し、見解のいずれも実現される保証はありません。また当資料の記載内容、データ等は作成時点のものであり、今後予告なしに変更することがあります。当資料で使用している指数等に係る著作権等の知的財産権、その他一切の権利は、当該指数等の開発元または公表元に帰属します。当資料中の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。アライアンス・バーンスタイン及びABはアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーとその傘下の関連会社を含みます。アライアンス・バーンスタイン株式会社は、ABの日本拠点です。

「責任投資」カテゴリーの最新記事

「責任投資」カテゴリーでよく読まれている記事

「責任投資」カテゴリー 一覧へ

アライアンス・バーンスタインの運用サービス

アライアンス・バーンスタイン株式会社

金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第303号
https://www.alliancebernstein.co.jp/

加入協会
一般社団法人投資信託協会
一般社団法人日本投資顧問業協会
日本証券業協会
一般社団法人第二種金融商品取引業協会

当資料についての重要情報

当資料は、投資判断のご参考となる情報提供を目的としており勧誘を目的としたものではありません。特定の投資信託の取得をご希望の場合には、販売会社において投資信託説明書(交付目論見書)をお渡ししますので、必ず詳細をご確認のうえ、投資に関する最終決定はご自身で判断なさるようお願いします。以下の内容は、投資信託をお申込みされる際に、投資家の皆様に、ご確認いただきたい事項としてお知らせするものです。

投資信託のリスクについて

アライアンス・バーンスタイン株式会社の設定・運用する投資信託は、株式・債券等の値動きのある金融商品等に投資します(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)ので、基準価額は変動し、投資元本を割り込むことがあります。したがって、元金が保証されているものではありません。投資信託の運用による損益は、全て投資者の皆様に帰属します。投資信託は預貯金と異なります。リスクの要因については、各投資信託が投資する金融商品等により異なりますので、お申込みにあたっては、各投資信託の投資信託説明書(交付目論見書)、契約締結前交付書面等をご覧ください。

お客様にご負担いただく費用

投資信託のご購入時や運用期間中には以下の費用がかかります

  • 申込時に直接ご負担いただく費用…申込手数料 上限3.3%(税抜3.0%)です。
  • 換金時に直接ご負担いただく費用…信託財産留保金 上限0.5%です。
  • 保有期間に間接的にご負担いただく費用…信託報酬 上限2.068%(税抜1.880%)です。

その他費用:上記以外に保有期間に応じてご負担いただく費用があります。投資信託説明書(交付目論見書)、契約締結前交付書面等でご確認ください。

上記に記載しているリスクや費用項目につきましては、一般的な投資信託を想定しております。費用の料率につきましては、アライアンス・バーンスタイン株式会社が運用する全ての投資信託のうち、徴収するそれぞれの費用における最高の料率を記載しております。

ご注意

アライアンス・バーンスタイン株式会社の運用戦略や商品は、値動きのある金融商品等を投資対象として運用を行いますので、運用ポートフォリオの運用実績は、組入れられた金融商品等の値動きの変化による影響を受けます。また、金融商品取引業者等と取引を行うため、その業務または財産の状況の変化による影響も受けます。デリバティブ取引を行う場合は、これらの影響により保証金を超過する損失が発生する可能性があります。資産の価値の減少を含むリスクはお客様に帰属します。したがって、元金および利回りのいずれも保証されているものではありません。運用戦略や商品によって投資対象資産の種類や投資制限、取引市場、投資対象国等が異なることから、リスクの内容や性質が異なります。また、ご投資に伴う運用報酬や保有期間中に間接的にご負担いただく費用、その他費用等及びその合計額も異なりますので、その金額をあらかじめ表示することができません。上記の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。