ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、エネルギーや防衛関連の銘柄に対する投資家の見方、特に環境・社会・ガバナンス(ESG)の観点からの見方が変わりつつある。投資家は西側諸国のエネルギー自給と軍事的な抑止力の向上に貢献できる、責任ある企業への投資を検討するべきかもしれない。
 
ロシアのウクライナ侵攻は、多くの面で投資家に永続的な影響をもたらしそうだ(以前の記事『ウクライナ侵攻: アクティブ運用への長期的な影響を考える』ご参照)。例えば、エネルギーの自給は、今や欧米にとって不可欠な目標だとみなされている。また、西側諸国は潜在的な脅威に対する十分な備えを確保するため、国防支出を拡大させると見られる。
 
こうした変化は、ESGを重視する投資家の一般的な認識に課題を突きつけている。戦争が始まる前、エネルギー業界や防衛産業は、サステナビリティやESGの観点からどちらも敬遠されてきた。しかし今では、これらの企業は新たな現実に対処するための重要なプレーヤーだと考えられている。実際、2022年年初から3月25日までに、S&P 500指数を構成するエネルギー・セクターは42.3%、航空宇宙・防衛セクターは13.5%、それぞれ上昇している。
 

注目を浴びるエネルギー安全保障

ロシアとウクライナの戦争は世界の秩序に途方もない変化をもたらし、少なくとも40年以上続いてきたグローバリゼーションの流れを押し戻しつつある。一部の政治評論家は、ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻に踏み切ったのは、それ以前に石油やガス価格が高騰していたことで、ロシアが経済的に西側諸国よりも優位な立場にあったことが一因だと指摘している。そして脱炭素化の流れが化石燃料生産への投資を抑制し、エネルギー価格を押し上げる一因になったとも言われている。その真偽はともかく、それぞれの国や地域がグリーンエネルギーへの移行を進める中でも(以前の記事『再生可能エネルギーへの道筋は意外と複雑』ご参照)、従来型のエネルギー源への十分なアクセスが必要であることが痛みを伴って明らかになった。
 
米国ではガソリン価格が急騰している。ロシアからの供給に頼っていた欧州の天然ガス価格も跳ね上がった。エネルギー価格は、戦争のニュースで上昇し、停戦への期待で下落するという乱高下を演じている。今後どうなるにせよ、米国にとってエネルギー自給は不可欠で、再生可能エネルギーへの移行期にも石油とガスが必要であると同時に、低炭素エネルギー源への投資を加速させる必要があることが明確になっている。
 
長期的な視点に立つ投資家は、強力なビジネスを持ち、責任ある行動をとるエネルギー企業を探し出さなくてはならない。現在の環境下で大きな利益を得ているだけでなく、今後危機が収束して原油価格が下落した場合にも好業績を維持することができるような、利益率の高い企業がその候補となる。
 
多くのエネルギー企業が、サステナビリティに関するベストプラクティス基準を満たそうとする取り組みを続けている。再生可能エネルギーに投資しているエネルギー会社や電力会社は、石油やガスの短期的な需要に加え、風力や太陽光エネルギーの需要拡大にも対応できるため、構造的な移行に伴う投資機会を有している。同時に、アクティブ運用の投資家は、エネルギー企業とのエンゲージメントを通じ、再生可能エネルギーへの移行プロセスの適切な管理や、情報開示の改善、事業活動から生じる炭素排出量の削減を働きかけることができる。
 

民主主義社会にとって不可欠は防衛産業

ESG問題が重視される世界において、防衛産業が悪者扱いされた理由は容易に理解できる。防衛企業は人間を殺す製品を作っており、それが悪者に売られることが多いからだ。
 
今、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は西側諸国に武器の提供を求めており、防衛企業は民主主義と人権を守るというESGの基本的な目標を果たすために重要な役割を担っている。しかし、世界銀行によると、各国の国防支出の対国内総生産(GDP)比率は過去40年間で最低に近い水準にあり、米国では3.7%、世界全体では2.4%にとどまっている。
 
プーチン大統領は、平和が当たり前ではない時代に世界を逆戻りさせた。このいわれのない戦争は、多くの政府にソフトパワーの限界と、我々の価値観や社会を守るための軍事力の必要性を認識させた。
 
ドイツが2022年の国防予算を1,000億ユーロに倍増させることほど、センチメントの変化を象徴するものはない。第二次世界大戦以降、国防支出を厳しく制限してきたドイツにとって、これは極めて大きな変化である。ドイツが最近、ロッキード・マーチンにF-35戦闘機35機を発注したことは、ほんの始まりに過ぎない(ロイターの記事「Germany to buy 35 Lockheed F-35 fighter jets from U.S. amid Ukraine crisis」(英語)ご参照)。こうした動きは、西欧の庭先で起きているロシアとウクライナの戦争が、防衛産業に対する世論をいかに変化させているかを示すものと言える。
 
従来、防衛企業の株価は市場の下降局面でも比較的持ちこたえる傾向があり、景気循環の影響を受けにくい国防支出の性格により、景気後退期にも底堅い動きを示すと思われる。防衛産業を見直そうとしている投資家は、企業がクラスター爆弾や化学・生物兵器など、論議を呼ぶ兵器を製造していないことを確認する必要がある。歴史的に汚職や贈賄が行われてきた業界であるため、企業倫理も焦点を当てて評価すべき重要な分野である。また防衛企業は違法な販売を防止し、自社製品の乱用を最小限に抑えるための強力なプロセスを築き上げる必要がある。
 

ESGの再検討: 考慮すべき3つの問題

これらの産業に対する意識の変化は、投資プロセスにおけるESG評価に関わる3つの重要な問題を浮き彫りにしている。
 
1. 「S」を忘れてはいけない: 投資家は環境問題を重視しがちだが、社会的な問題もESGの重要な一部である。エネルギー価格の高騰は消費者にとっては増税のようなものであり、特に低所得世帯に大きな打撃を与えかねない。また、民主主義を守ることは、自由を尊ぶすべての社会にとって不可欠なことである。
 
2. ESG課題は絶えず変化する: 環境の変化に応じて柔軟にポジションを調整し、ESG課題の複雑で微妙な特性を反映するためにも、一貫したESGインテグレーションのアプローチを持つことが重要である。
 
3. ネガティブスクリーニングのデメリット: あるセクターや産業全体をポートフォリオから排除することは、アクティブ運用のマネジャーが、より責任あるビジネス慣行を促すための企業との対話を妨げかねない。投資家は、セクターや産業全体に「良い」とか「悪い」といったレッテルを貼って単純化しすぎないよう注意する必要がある。
 
これら3つの観点を念頭に置くことで、投資家はより思慮深くESGリサーチをポートフォリオに組み入れることができる。ロシアとウクライナの戦争がもたらす変化に世界が適応していく中で、エネルギーと防衛関連企業の勢いは持続する可能性がある。投資家は魅力的なバリュエーション、強力なキャッシュフロー、資本リターン、事業の優位性を持つエネルギー及び防衛関連企業に焦点を合わせると同時に、ESGリサーチを通じ、責任ある行動を取っている企業を見極めなくてはならない。
 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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