ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DEI)を推進する施策がビジネスの追い風になると認識する企業が増えている。こうした「ダイバーシティ・リーダー企業」を見いだすことができる株式投資家は、特にイノベーションの推進や業績拡大を目指す上で人的資本が大きな役割を果たしている企業の中で、魅力的な企業を発掘することができるだろう。
 
企業の成功にとって、異なる視点から課題を捉え、それに対処する能力はますます重要となってきており、多様な才能を持つ人材を豊富に抱えている企業は、重要な競争上の優位性を獲得できるケースが多い。DEIを推進することは、よりインクルーシブで生産的な労働力を生み出し、従業員、企業、投資家に多くの恩恵をもたらす。
 
グローバルな職場環境は、年齢、性別、性的指向、そして特に人種などの面で着実に変化しつつある。例えば米国では、2010年時点では労働年齢の成人の75%が白人であったが、2020年にはその割合が64%に低下し、次の世代が成人になる頃には53%に低下すると予想されている(図表1)。
 

米国企業は多様性が進展している.png
 
将来を見据えている企業は、こうした人口動態の変化に対応しようとしている。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は、採用活動、企業文化、従業員の育成の改革を通じて、より一層、さまざまなタイプの従業員を大切にする企業が、明確な戦略的優位性を得られると考えている。
 

従業員に最も活気があるのは信頼感が最も高い企業

DEIを推進する効果的な施策は、行動や意識の明確なエコシステムとなっている(図表2)。多様な人材を雇用することは明確な出発点となる。情報共有、生産性、信頼、従業員の満足を重視する企業文化も欠かせない。心理的な安心感も重要で、それは心からの共感と、職場における偏見をなくすための取り組みによって育まれる。その結果、従業員は自分らしくいられると感じることができるようになる。これらはすべて、イノベーションと並行して進展する。信頼感が高まり、アイデアがチーム内及びチーム間でオープンにされるのに伴い、イノベーションは指数関数的に発展していく。イノベーションを真に重視している企業では、DEIがビジネスの成功に大きな影響を与えることができると思われる。
 
ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンのエコシステム.png
 
DEIが利益に直結することが証明されているにもかかわらず、多くの企業はその恩恵を受けられずにいる。その大きな原因は説明責任の欠如である。DEIに取り組んでいる企業ですら、具体的なDEI目標を課されている経営陣は26%にとどまっている。DEI目標の達成に注力している企業や、それを幹部や従業員のパフォーマンス評価に活用している企業は、さらに少ない(図表3)。
 
説明責任の欠如がダイバーシティやインクルージョンの進展を遅らせている.png
 

ダイバーシティの向上が収益拡大につながる

DEIの導入はなかなか進まないが、それを推進している企業は同業他社よりも優れた業績を上げている。例えば、マッキンゼーが15カ国の大企業1,000社を対象に、性別や人種のダイバーシティが業績に与える影響について最近実施した調査によると、役員レベルの性別に関するダイバーシティが上位4分の1に入る企業は、収益性が平均を上回る確率が、下位4分の1の企業よりも25%高かった。また、幹部職の30%以上を女性が占めている企業は、女性幹部が少ない企業をアウトパフォームする確率が著しく高いことが分かった。
 
マッキンゼーによると、人種や文化のダイバーシティも同じ効果がある。人種のダイバーシティが上位4分の1に入る企業は、下位4分の1の企業に比べ収益性が36%高く、その格差は以前よりも若干拡大した。
 
マッキンゼーや他の調査は、ダイバーシティと収益性の間に関連性があることを明確に示している。しかし、DEIと株価パフォーマンスに直接的な関連性があるかどうかは、まだはっきりしていない。ABのリサーチによると、性別のダイバーシティに関するスコアが上位20%に入るグローバル企業の株価は、3年間に、スコアが下位の企業の株価を約4%アウトパフォームした。もう少し期間を長くしたリサーチでも、同じような結果が出ている(図表4)。
 
性別のダイバーシティに関するグローバルなリーダー企業がアウトパフォーム.png
 

ダイバーシティに関するリサーチにも多様性が必要

アウトパフォームする可能性のあるダイバーシティ・リーダー企業を見つけ出すには、入念なリサーチが必要になる。ダイバーシティを目指す企業の取り組みが純粋なものであるかどうか明確に分かることはほとんどない上、DEIに関するディスクロージャーやデータも初期段階のものが多く、やや断片的である。そのため、ダイバーシティ・リーダー企業を見極めるには、従来の財務報告書や定量リサーチから求人用ウェブサイトや社員のブログについてのデータサイエンスに基づく分析まで、幅広いインプットが必要となる。例えば、グラスドアは従業員の感情を総合的に分析しており、スコアが高い企業ほど業績がいいことが我々の調査で明らかになっている。こうした非伝統的なデータソースとファンダメンタルリサーチを組み合わせることで、DEIに関する企業のコミットメントや進捗状況をより詳しく把握することができる。
 
ABはまた、国際連合の持続可能な開発目標に沿った取り組みを進めている企業も探している。その目標としては、ジェンダーの平等(No.5)、働きがいのある人間らしい雇用/経済成長(No.8)、職場における不平等の是正(No.10)などが挙げられる。大手家庭用品小売会社のウィリアムズ・ソノマは、女性比率が63%と業界トップで、幹部職員の性別構成もバランスが取れている。また、インド最大の IT コンサルティング企業であるインフォシスはコミュニティ・カレッジと連携し、STEM(科学、テクノロジー、エンジニアリング、数学)教育へのアクセス拡大に取り組んでいる。
 
コロナ禍後のビジネスの世界では、人的資本の価値がかつてないほど高まっている。しかし、それは流動的な資産であるため、多くの投資家はその価値を十分に評価しておらず、どう測るべきかも分からずにいる。多くの企業はなぜ人的資本がそれほど重要であるかを認識しているが、DEIが成功の重要な基盤を作り出すという考え方を取り入れている企業は比較的少ない。ダイバーシティを推進する企業が増えれば、潜在的なリターンを高めながら、世界中の従業員の職場環境を改善するという二重のメリットを投資家に提供することができる企業も増えることになる。
 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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