インパクト投資は、経済的リターンを得ながら、社会や環境に直接的かつ測定可能な影響を与えることを目指す投資を指す。これまでは、プライベート・デットや株式市場に関連する分野とされてきたものだが、米国地方債という非常に重要な債券市場でもインパクト投資の概念は存在する。
 
インパクト投資と米国地方債投資は噛み合わせがいい。地方自治体は、すべての市民が参画できる経済を目指して、インフラ設備及び公共財の建設や支援を計画し、責任を負っている。その一方、投資家は、米国地方債への投資を通じての政治的・市民的な意思を後押しし、地方コミュニティへ変化をもたらすことが可能だ。
 
州政府や地方自治体には、前向きな変化をもたらす資金を提供するオプションが数多くある。しかし、米国地方債のインパクト投資は、大きな変化をもたらすために大規模で幅広い投資を行う必要はない。むしろ、草の根レベルの小さなプロジェクトで最も効果が期待できるだろう。
 
例えば、米国の公立学校の老朽化があげられる。全国にある何千もの学校システムの施設は、平均して70年から100年前のものとなっている。これらは歴史的な建造物ではなく、半世紀以上にわたる資金不足によりメンテナンスと修繕の遅れに悩まされている単なる古い建物だ。こうした不十分で時には危険な施設は、社会経済的地位の低い地域に集中しており、生徒の学力に直接的・間接的な影響を及ぼしている。米国地方債のインパクト投資は、最新の設備と資源を学校システムに直接導入することで、この不公平の是正に貢献することができる。資金調達によってインフラを改善することで、生徒の成績に長期的に大きな好影響がもたらされる結果が期待できる(米国の学校の資金調達に関するwebサイト『School Finance 101 』(英語)ご参照)。
 
ダラス独立学区(ISD)は、公平な教育の実現に向けた取り組みに資金を振り向けるために債券を発行している。この学区で十分な教育を受けていない地域の家庭は、心身の健康管理、放課後のプログラム、職業訓練、健康的な食事、より安全な施設などを十分に利用できていないのが現状だ。このギャップを埋めるために、ダラスISDは、過去において十分な投資がなされず、周りの地域から切り離されたり取り残されたりするなどして不利な影響を受けてきた地域に、4つの生徒・家族支援センターを設置することを計画している。現在、計画チームは施設の物理的な建築計画を検討しているが、これは有権者投票で賛成を得て発行された債券によって建設に移される予定だ。
 
健康もまた、自治体金融が格差を埋めることができる分野だ。例えば、ボストンのバックベイの富裕層は平均寿命が90歳と長寿だ。しかし、わずか2マイル離れた貧困層の多いロックスベリー地区では、平均寿命がわずか60歳であり、30年の「死のギャップ」がある。
 
この格差は、社会経済的な不安定さの連鎖に主に起因している。2016年から2019年にかけて、ボストン医療センターは、住宅が不安定で「医学的に問題あり」と分類されるボストンの78家族を登録し、住宅、財政、法律、社会、健康のニーズに対応するサービスの連携が、身体的・精神的健康の改善につながるかどうかを調査した。結論は明らかで、研究開始後6カ月間で、親の精神的健康状態が改善されただけでなく、健康状態が「普通」または「悪い」子どもの割合が32ポイントも減少している。
 
ボストン・メディカル・センターは、患者の70%がロックスベリーなどの十分なサービスを受けられない地域の人々であり、彼らにとってのセーフティネットとなる病院だが、地域の健康を改善するためには、不安定さの連鎖に対処する必要があることを視野に入れて運営している。同病院は、単に医療を提供するだけでなく、集団健康管理を通じて、富裕層と貧困層の間の格差を是正するための測定可能な措置をとっている。ボストン・メディカル・センターのような機関を支援することで、米国地方債のインパクト投資は、歴史的に恵まれないコミュニティにおける健康を公平に向け改善に向かわせることを支援することができる。
 
清潔な水へのアクセスは、米国国内の多くのコミュニティにおいてリスクを抱えている。古い、潜在的に有毒な鉛の給水管は、いまだに非常に多くのシステムで使用されており、その大半は低所得の有色人種のコミュニティだ。水道管が腐食すると、各家庭の蛇口に直接鉛が溶け出す。鉛は安全ではないため、子どもは特に認知機能の遅れのリスクが高くなる。自治体へのインパクト投資は、この人為的な環境問題に直接取り組むことができる。
 
ニュージャージー州ニューアークでは、2015年に腐食防止システムの故障が発生し、住民はまさにこのような状況によって危険にさらされるようになった。この状況に効果的かつ効率的に対処するため、エセックス郡改善局は地方債を発行し、市内にある18,000本の鉛製住宅用水道管の交換を義務付けた。現在までに約21,000本の水道管が交換され、同市の鉛汚染飲料水撲滅への効果的な施策になっている。
 
これらは、地方自治体のインパクト投資が、歴史的に疎外され、排除されてきたコミュニティの生活の質を測定可能な形で向上させることができることを示す多くの例の一部である。
 
世界経済は今後数年間、気候変動や社会正義の課題に対処するため、100兆米ドル以上の資金を動員する必要がある。環境・社会・ガバナンス(ESG)の統合やサステナブル投資などのさまざまな責任投資戦略は、こうした分野での支援の基盤となることが期待される。そして、米国地方債の投資家にとっても、インパクト投資が社会に好影響を与え、その便益は投資家自身にとって身近な場所にももたらされるかもしれない。
 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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