グリーン・ボンドは従来型の債券に比べ、下値余地が抑えられるという評価を得ている。だが2022年は市場全体が下落する中で、グリーン・ボンドのディフェンシブなパフォーマンス特性の成果はまちまちだった。それは投資家にとって何を意味するのだろうか?
 
アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では、2022年これまでのパフォーマンスに大きなばらつきが見られることについて、グリーン・ボンド投資にアクティブなアプローチを取り入れるべき説得力のある理由になると考えている。現在は極めて多くのグリーン・ボンドが発行されているため、それらを差別化し、それぞれのパフォーマンス特性をより良く理解するには、鋭い知見が必要になる。
 

グリーニアムとは?

グリーン・ボンドは一般的に従来型債券よりも高く評価されてきたため、価格はやや高く、利回りは低くなる傾向がある。別の言い方をすれば、グリーン・ボンドは通常、従来型債券に対する利回りプレミアムがマイナスとなり、それは「グリーニアム」と呼ばれる。グリーン・ボンドのグリーニアムが拡大(利回りプレミアムのマイナス幅が拡大)すれば、同種の従来型債券をアウトパフォームすることになる。つまり、グリーニアムの拡大はグリーン・ボンドのパフォーマンスにプラス効果をもたらす。
 
2020年のリスク・オフ局面ではグリーニアムが足並みをそろえて拡大したが、2022年はグリーニアムの動きが小さい(図表1)上にばらつきも大きく、少数ながら全くアウトパフォームしなかったケースも見られた。
 

 
グリーン・ボンドには依然として下値余地を抑制する効果がある.png
 
 
 
代表的なユーロ建て社債100銘柄の市場データを見ると、2022年は年初来グリーン・ボンドのパフォーマンスに著しいばらつきが生じていることが分かる。全体の80%は上半期にグリーニアムのマイナス幅が拡大した(従来型債券をアウトパフォームした)が、20%はそうではなく、下落余地を抑える好ましい特性は見られなかった(図表2)。
 
 
パフォーマンスのばらつきの拡大は、個々のグリーン・ボンドの違いを見極める必要があることを意味する.png
 
 
しかも、グリーニアムが拡大した80%のグリーン・ボンドでも、その変化の度合いは数ベーシス・ポイント(下値余地を若干抑制)から50ベーシス・ポイント(下値余地を力強く抑制)まで、大きく異なっている。こうした市場の動きは、グリーン・ボンド投資でアクティブなアプローチを取り入れるべきと考える強力な根拠となる上、すべてのグリーン・ボンドを平等に扱うべきではないという見方を裏付けている(実際、ABは最近、グリーン・ボンドや他の環境・社会・ガバナンス(ESG)ラベル付き証券を分析する包括的なフレームワークを構築した(以前の記事 『そのESG債券はホンモノか?: ABの評価フレームワーク』ご参照))。
 

債券市場の変化によりパフォーマンスのばらつきが さらに拡大

それは、グリーン・ボンドのディフェンシブな特性が失われつつあることを意味しているのだろうか?必ずしもそうではない。グリーン・ボンドは依然として従来型債券と比べてリスクを軽減する好ましい特性を持っているが、投資家は責任投資の人気の高まりから生じる債券市場におけるいくつかの変化を考慮する必要があるとABでは考える。これらはグリーニアムの多寡に影響を与える見込みだが、グリーン・ボンドのユニバースの拡大や広がりにも寄与している。
 
1. 発行の増加: グリーン投資は主流になりつつある。市場の成熟にともないグリーン・ボンドの発行が著しく増加した結果、一部の銘柄に付いていた希少価値が低下し、需要と供給のバランスが一段と均衡している。
 
2. セクターの拡大: 発行の増加を受け、グリーン・ボンドを発行するセクターも拡大している。それにともない、グリーン・ボンド・ユニバースの構成も徐々に変化しており、景気に敏感なセクターの比重が高まる一方で、公益事業などの安定的なセクターへの偏りは少なくなっている。その結果、2022年上半期は2020年上半期に比べ、成長環境の変化に対する感応度が高くなった可能性がある。
 
3. 平均的な格付けの低下: 発行の増加により、グリーン・ボンド市場はセクターばかりでなく、クオリティの面でも深みや多様性が高まった。その結果、グリーン・ボンドの平均的な格付けが低下し(図表3)、信用に対する感応度が高くなった。そのことは、2022年のリスク・オフ局面において、グリーン・ボンド全体の耐久性を低下させる一因となった可能性がある。
 
 
2020年以降、BBB格のグリーン・ボンドが増加.png
 
 
4. 投資家層の広がり: 投資家の需要も変化している。グリーン・ボンドの購入者層は拡大し、もはや機関投資家のような長期的な視野を持つ投資家だけが需要をけん引することはなくなった。より多くの投資家が責任投資を受け入れ、欧州のサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)などの規制環境の変化に対応している。
 
長期的に見れば、投資家は構造がぜい弱なグリーン・ボンドにグリーニアムを支払おうとはしなくなると思われる。特に、調達資金の使途が適切なグリーン・プロジェクトとあまり関係がない債券や、発行体やその業界がグリーンウォッシングの疑いをかけられやすい場合は、その傾向が強まりそうだ。逆に、優秀な銘柄は、質の高い債券に対して積極的にグリーニアムを支払おうとする買い手を引き寄せる可能性が高い。そうした債券の例としては、EU(欧州連合)タクソノミーに完全に合致しているグリーン・ボンドや、発行体がサステナビリティに関して非常に良好な実績を持っている銘柄が挙げられる。
 
投資家は依然としてディフェンシブな特性を持つグリーン・ボンドを見つけることができるとABでは考える。しかし同時に、グリーン・ボンド市場の広がりや深さが著しく拡大していることも認識している。そのことは、投資家は個々の銘柄の特性を綿密に分析した上で、グリーン・ボンドの構造をより厳格に区別する必要があることを意味している。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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