米国債券市場の投資家は、「鉄が熱い」うちに行動したいと考えるかもしれない。

トランプ氏の政策がインフレ率の上昇と連邦財政赤字の拡大を招きかねないとの見方から、米国大統領選挙の前後に米国の債券利回りが急上昇した。2024年11月には米国10年物国債の利回りは4.4%に達し、9月中旬につけた直近の低水準から80ベーシス・ポイント(bps)上昇した。トランプ次期政権の関税や税制、他の政策が明確になるまでは、憶測に振り回されやすく、金利のボラティリティが高い状況が続きそうだ。

ボラティリティの上昇や利回りの反転は、難局というよりも好機だとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は考えている。本稿では、今後の利回りの行方に関するABの見方や、現在の投資環境をうまく活用するための3つの戦略について説明したい。

イールドカーブ:影響は避けられず

米連邦準備制度理事会(FRB)が憶測ではなく経済指標に基づいて緩和策を継続しているにもかかわらず、債券利回りは上昇した。その結果、米国国債のイールドカーブはスティープ化した。イールドカーブには、将来の経済環境に関する現時点における投資家の見方が反映される。そのため、イールドカーブの短期ゾーンと長期ゾーンに影響を与える要因は異なる(図表1)。

例えば、FRBの政策はイールドカーブの短期ゾーンに大きな影響を与えるため、投資家は最新の雇用データや消費者物価指数(CPI)の発表を注視している。期間が3~10年の中期ゾーンでは、経済成長が最も重要な要因となる。最長期ゾーンでは、長期的なファンダメンタルズが重要な役割を果たす。

長期的な懸念はより推測に基づくものとなる。例を挙げると、インフレ率は今後数十年にわたって構造的に上昇するのか、それとも低下するのか?人口動態の変化などのメガトレンドは長期的にどんな影響を成長に及ぼすのだろうか?(以前の記事『新たな環境の夜明け:インフレが債券投資に与える長期的な影響』ご参照)米国国債は今後もリスクフリー資産であり続けるのか?などといった懸念だ。

現時点では、特に最後の問いに対する憶測が注目を集めている。なぜなら、一部の市場参加者が、すでに国内総生産(GDP)の約110%に達している米国の債務が今後の減税によってさらに増えかねないと懸念しているからだ(以前の記事『The US National Debt: Debt or Alive?』(英語)ご参照)。負債の規模や政府の利払い能力は、格付け機関にとって懸念すべき重大な問題となる。

幸いなことに、米国のソブリン格付けは、高水準の1人当たり所得、世界最大の経済大国としての地位、活気あふれるビジネス環境といった構造的な強さに支えられている。また、世界で最も強力な準備通貨である米ドルに対する高い需要を背景に、米政府は非常に柔軟な資金調達能力を備えている。こうした強みが増大する米国の国家債務を支えており、現在の格付けを維持するうえで寄与している。

財政赤字の増大が必ずしも利回りの上昇につながらないことは、日本の例が示している。日本では債務残高の対GDP比率が米国の倍近くに達しているが、利回りははるかに低い。実際、1990年以降、日本の債務残高の対GDP比率は4倍以上に上昇しているが、10年債利回りは8%超から現在では約1%に低下している。

結論を言えば、米国の債務問題は周知の事実であり、すでに債券市場に織り込まれているとABは考えている。

利回り:長期にわたり高止まりするが、永遠には持続しない

短期的な債券利回りの方向性を予測しようとしても、先は読みにくい。それでも、ボラティリティはしばらく高水準で推移する見通しだ。成長ペースが加速し、ある程度高いインフレ率が続くと予想されていることを踏まえれば、利回りは引き続き高い水準で推移する可能性が高い。米国の10年国債利回りは当面は4.25~4.75%を中心に推移する見通しだ。(利回りが5%を超えるにはインフレ率が大幅に上昇する必要があるが、そうした状況は考えにくい)

しかし、ABは引き続き中期的な見通しを重視しており、投資家もそこに焦点を当てるべきだと思われる。利回りは現在、循環的なピークに近づいている。歴史的に見ると、FRBの金融緩和サイクルでは利回りが低下しており(図表2)、FRBが金融緩和を継続するというABの見方に変わりはない(以前の記事『米国財政の今後:選挙後の米国の政策が及ぼし得る影響に関する考察』ご参照)。

そのため、ABの見方では、今後2~3年間は利回りが低下するのに伴い債券価格が上昇すると予想される。投資のタイミングを図って待機している滞留資金がかなり多いことを踏まえると、債券への需要が大きく膨らむ局面を迎える可能性がある。2024年9月30日時点で、米国のマネー・マーケット・ファンドに滞留している資金は過去最高の6兆8,000億米ドルに達しており(金融調査局のサイトご参照(英語、外部サイト))、これは中央銀行が積極的に利上げしていた時期に人気を集めた「Tビル・アンド・チル(Tビルに資金を積み上げて様子見する)」戦略のようなものだ(以前の記事『It’s Time to Say Goodbye to ‘T-Bill and Chill’』(英語)ご参照)。今後はFRBが金融を緩和し、短期市場金利が低下していくため、今後数年間に約2兆5,000億~3兆米ドルが債券市場に戻ってくると予想される。

デュレーションの長期化及び他の戦略

債券市場への参入を検討している投資家は、最近の利回り上昇局面を活用すべきだとABでは考える(以前の記事『債券市場の見通し(2024年10-12月期):コントロールされた金利低下局面における債券戦略』ご参照)。依然として模様眺めを続けている投資家は、債券利回りが低下するのに伴い、価格上昇の機会を逸するリスクがある。一方、短期市場の利回りもFRBの政策に密接に連動しているためやはり低下する可能性が高いが、債券価格の上昇に匹敵するほどのリターンは期待できない。

投資家は次に、現在の市場環境をうまく生かすため以下に示す3つの戦略について検討すべきである。

1. デュレーションを長期化する:金利の変化に対する感応度を示すポートフォリオのデュレーションが超短期に傾いている場合には、デュレーションの長期化を検討すべきだ。金利が低下するのに伴い、デュレーションは債券価格の上昇を通じてポートフォリオに恩恵をもたらす。

デュレーションの最も純粋な源泉である国債は流動性が高く、株式市場のボラティリティを相殺する効果もある。例えば、8月に米雇用関連データの悪化を受けて株価が下落した際には、米国債がそれを相殺する役割を果たした。また、最近は米国債が下落している唯一のセクターであるため、それを保有することでデュレーションを長期化させるのは理にかなっている。

しかし、デュレーションを決めた後にそれを放置していてはならない。現在のように利回りが上昇(債券価格は下落)している場面ではデュレーションを長期化し、利回りが低下(債券価格は上昇)している場合はデュレーションを短期化するのが望ましい。また、金利が現在の水準からさらに上昇した場合でも、利回りの上昇は価格下落によるマイナス効果を軽減する役割を果たすことを忘れてはならない。

2. イールドカーブの「スティープ化」に備える:イールドカーブのどの部分でポジションを構築するかも重要だ。FRBが緩和を継続する一方で、連邦債務残高への懸念から長期金利が高止まりしているため、イールドカーブはさらにスティープ化(年限による金利差の拡大)する余地がある。

イールドカーブの傾きは、5年債と30年債の間で最も拡大すると思われる。 歴史的に見ると、FRBが金融を緩和している場面では、景気後退の影響も加わり、5年債と30年債がもっとも著しく影響をうけた。 今回もイールドカーブの形状がスティープ化しているが、依然として過去の平均を下回っている(図表3)。 カーブの傾きは過去の水準には達しないかもしれないが、スティープ化はここからさらに進むと思われる。

イールドカーブの傾きが急になっている場面で債券を購入する利点としては、高い利回りが得られることに加え、「ロールダウン」というメリットがある。イールドカーブが右肩上がりの場合、債券は時間の経過につれて価格が上昇し、利回りは低下していく(この現象をロールダウンという)。イールドカーブの傾きが急であるほど、価格の上昇幅も大きくなる。

3. バランスの取れたスタンスを採用する:今日のポートフォリオでは、国債とクレジット・セクターの両方に果たすべき役割がある。最も効果的な戦略の一つは、国債と成長が期待できるクレジット資産を組み合わせ、単一のポートフォリオでダイナミックに運用することだ(以前の記事『信用サイクルの転換に伴うリスク・バランス』ご参照)。

この組み合わせは、国債と経済成長に敏感な債券資産の相関関係を活用するもので、極端なインフレの再来や経済の崩壊といった、緩やかな成長を見込むABの基本シナリオとは異なる現象が起きた場合のリスクを軽減するうえでも役立つ。

それに加え、さまざまな資産を単一のポートフォリオにまとめることで、金利リスクと信用リスクの相互作用を管理しやすくなり、市場環境に応じてデュレーションや信用リスク調整することが可能になる。

ボラティリティに投資機会を見出す

投資家は緩やかな経済成長や高い利回りといった幅広いトレンドに目を向けつつ、政策見通しの変化や短期的な混乱に対応していくべきだと考える。ABの見方では、現在は市場の流れをうまくとらえようとする投資家にとって好ましい状況にある。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。オリジナルの英語版はこちら
本文中の見解はリサーチ、投資助言、売買推奨ではなく、必ずしもアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)ポートフォリオ運用チームの見解とは限りません。本文中で言及した資産クラスに関する過去の実績や分析は将来の成果等を示唆・保証するものではありません。
当資料は、2024年11月25日現在の情報を基にアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーが作成したものをアライアンス・バーンスタイン株式会社が翻訳した資料であり、いかなる場合も当資料に記載されている情報は、投資助言としてみなされません。当資料は信用できると判断した情報をもとに作成しておりますが、その正確性、完全性を保証するものではありません。当資料に掲載されている予測、見通し、見解のいずれも実現される保証はありません。また当資料の記載内容、データ等は作成時点のものであり、今後予告なしに変更することがあります。当資料で使用している指数等に係る著作権等の知的財産権、その他一切の権利は、当該指数等の開発元または公表元に帰属します。当資料中の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。当資料中の格付けはABの定義に基づきます。アライアンス・バーンスタイン及びABはアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーとその傘下の関連会社を含みます。アライアンス・バーンスタイン株式会社は、ABの日本拠点です。



当資料についてのご意見、コメント、お問い合せ等はjpmarcom@editalliancebernsteinまでお寄せください。

「債券」カテゴリーの最新記事

「債券」カテゴリーでよく読まれている記事

「債券」カテゴリー 一覧へ

アライアンス・バーンスタインの運用サービス

アライアンス・バーンスタイン株式会社

金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第303号
https://www.alliancebernstein.co.jp/

加入協会
一般社団法人投資信託協会
一般社団法人日本投資顧問業協会
日本証券業協会
一般社団法人第二種金融商品取引業協会

当資料についての重要情報

当資料は、投資判断のご参考となる情報提供を目的としており勧誘を目的としたものではありません。特定の投資信託の取得をご希望の場合には、販売会社において投資信託説明書(交付目論見書)をお渡ししますので、必ず詳細をご確認のうえ、投資に関する最終決定はご自身で判断なさるようお願いします。以下の内容は、投資信託をお申込みされる際に、投資家の皆様に、ご確認いただきたい事項としてお知らせするものです。

投資信託のリスクについて

アライアンス・バーンスタイン株式会社の設定・運用する投資信託は、株式・債券等の値動きのある金融商品等に投資します(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)ので、基準価額は変動し、投資元本を割り込むことがあります。したがって、元金が保証されているものではありません。投資信託の運用による損益は、全て投資者の皆様に帰属します。投資信託は預貯金と異なります。リスクの要因については、各投資信託が投資する金融商品等により異なりますので、お申込みにあたっては、各投資信託の投資信託説明書(交付目論見書)、契約締結前交付書面等をご覧ください。

お客様にご負担いただく費用

投資信託のご購入時や運用期間中には以下の費用がかかります

  • 申込時に直接ご負担いただく費用…申込手数料 上限3.3%(税抜3.0%)です。
  • 換金時に直接ご負担いただく費用…信託財産留保金 上限0.5%です。
  • 保有期間に間接的にご負担いただく費用…信託報酬 上限2.068%(税抜1.880%)です。

その他費用:上記以外に保有期間に応じてご負担いただく費用があります。投資信託説明書(交付目論見書)、契約締結前交付書面等でご確認ください。

上記に記載しているリスクや費用項目につきましては、一般的な投資信託を想定しております。費用の料率につきましては、アライアンス・バーンスタイン株式会社が運用する全ての投資信託のうち、徴収するそれぞれの費用における最高の料率を記載しております。

ご注意

アライアンス・バーンスタイン株式会社の運用戦略や商品は、値動きのある金融商品等を投資対象として運用を行いますので、運用ポートフォリオの運用実績は、組入れられた金融商品等の値動きの変化による影響を受けます。また、金融商品取引業者等と取引を行うため、その業務または財産の状況の変化による影響も受けます。デリバティブ取引を行う場合は、これらの影響により保証金を超過する損失が発生する可能性があります。資産の価値の減少を含むリスクはお客様に帰属します。したがって、元金および利回りのいずれも保証されているものではありません。運用戦略や商品によって投資対象資産の種類や投資制限、取引市場、投資対象国等が異なることから、リスクの内容や性質が異なります。また、ご投資に伴う運用報酬や保有期間中に間接的にご負担いただく費用、その他費用等及びその合計額も異なりますので、その金額をあらかじめ表示することができません。上記の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。