米国S&P 500指数を構成する企業群において、50歳未満の取締役は全体の5%しかいない。しかし、さまざまな年齢層で構成される取締役会は、事業を営む上で他にはない優位性を持っていると示唆するリサーチがある。
企業のガバナンス慣行は、リスク管理やサステナビリティに関する価値ある洞察を提供しており、その中でも、取締役会のメンバー構成は重要な検討事項である。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)独自のものも含めたリサーチによれば、取締役の年齢構成が幅広いこと(「年齢ダイバーシティ」)は業績や株主還元と相関している可能性があり、複数の世代で構成される取締役会を後押しする上での強い材料となっている。
経験は十分、年齢ダイバーシティは不十分
経験にはメリットが数多くある。取締役が方向性の提示や経営の監視といった機能を適切に果たすためには、スキルと経験の適切な組み合わせが必要であり、これらは多くの場合、時間の経過とともに身につくものである。しかしABでは、取締役会の構成において、経験ばかりが重視されているのではないかという問題意識を持っている。
例えば、S&P 500指数を構成する企業群では全取締役の70%近くが単一の世代、具体的にはベビーブーマー(1946年から1964年生まれ)世代で構成されている。一方で、50歳未満の取締役はわずか5%しかいない。
なぜこれが問題なのか? 取締役会の世代が極端に偏ることにより、業績改善や事業の耐久性、後継者育成といった様々な課題への取り組みが充分になされない可能性があるためである。これらは単なる理論ではなく、研究分析によって裏付けられている。
取締役会の年齢ダイバーシティが、有効な監視と業績改善につながる可能性
ニューハンプシャー大学の研究者は、X世代(1965~1980年生まれ)の取締役の存在が、総資産利益率(ROA)と株価純資産倍率(PBR)で見た財務成績の改善と相関関係にあることを発見している(SSRNのレポート「New Kids on the Block: The Effect of Generation X Directors on Corporate Performance」ご参照(英語、外部サイト))。さらに注目すべきことに、研究開発(R&D)投資が多く、特許取得活動に取り組んでいる企業では、そうした相関関係が特に強いことも見つけ出した。
最近行われた他のリサーチでは、研究者が230以上の米国の銀行に注目してさまざまな企業及び取締役会の特徴を比較し、銀行の取締役会における年齢ダイバーシティの進展度合いが、業績開示内容の改善、ローン貸倒償却の減少、不良債権の減少と相関関係にあることを発見した(Sage Journalsの記事「Age diversity and the monitoring role of corporate boards: Evidence from banks」ご参照(英語、外部サイト))。当リサーチの執筆者は、取締役会が複数世代で構成されることにより、前例重視の経営判断や既成の慣習に異議を唱える傾向が強く、それが監視の有効性向上につながるという理論を立てている。
企業はまた、リーダーシップの継承プランに注意を払わなければならない。この点でも、複数世代で構成される取締役会にはメリットがあるようだ。PwCによれば、取締役会メンバーの年齢が多様化することにより、リーダーシップの緩やかな交代につながり、経験や知識の喪失を軽減し、避けて通れない継承プロセスを円滑に進めることができる(PwCのレポート「The value of age diversity」ご参照(英語、外部サイト))。このリサーチはまた、複数世代で構成される取締役会が、組織内のチームワークや協業を強化しながら、後継者候補の人数増加を促す場合があることも示唆している。
こうしたリサーチは、投資家にとってどのような意味があるのか?想像を上回る結果が報告されている。
複数世代で構成される取締役会と株価の関係
ABでは、ラッセル1000指数の構成企業を取締役の年齢層に従って3つのグループに分類した。最初のグループは、最年長の取締役と最年少の取締役との年齢差が30歳を超える取締役会で構成される。その対極となる2つ目のグループは、年齢ダイバーシティがあまり進展しておらず、かかる年齢差が21歳未満の取締役会である。3つ目のグループは上記2つの間を埋めるもので、かかる年齢差が21~30歳までの取締役会が含まれる。
その上で2017~2023年の株価パフォーマンスを分析すると、取締役の年齢差が最も大きいグループの企業が最も高い年率リターンを創出した一方で、年齢差が最も小さいグループの企業が創出したリターンは最も低いことがわかった。
この傾向はほとんどのセクターで一貫して見受けられ、イノベーション志向のセクターではより顕著だった。創業者が主導する企業とそれ以外の差を調整しても、傾向は同様だった。取締役会の年齢ダイバーシティは、テクノロジーやヘルスケアなどのR&D集約型のセクターで最も価値が高く、素材や不動産などのあまりR&D集約型ではないセクターでは最も価値が低いようだった(図表)。
取締役会メンバーの年齢構成にもっと注目しよう
若さがいつも経験に勝るというわけではない。単に年齢が若いからといって経験に劣る若手の取締役を指名したり、年齢差を最大化するために凝り固まった高齢の取締役を指名したりすることをABが企業に提案しているわけでもない。取締役の選出においては、その資質が最も重要なことに変わりはないとABは考えている。とはいえ、複数世代で構成される取締役会が過去数年間にわたり、単一の世代で構成される取締役会よりも高い投資パフォーマンスをあげる傾向があったことは、見逃せない事実だ。
取締役会の年齢ダイバーシティがもたらすメリットを浮き彫りにする証拠は増えつつある一方、この課題に対応する規制やガバナンス・コードはまだ見当たらない。こうした状況はいずれ変化する可能性が高い。ABは、企業が取締役会を刷新していく中でどのように年齢ダイバーシティを考慮しているかを見極めるとともに、こうした考慮がプラス(もしくはマイナス)に作用し得るセクターをより明確に特定していきたいと考えている。
投資を行う際に検討すべきファクターは数多くあり、取締役会の構成はその1つにすぎない。しかし、取締役会の年齢ダイバーシティが業績指標及びリターンの向上と相関関係にあることが明らかになっている以上、投資家は、投資先企業の取締役会の年齢ダイバーシティについて、より注意深く分析すべきだとABは考えている。
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