金融市場では先行きに関するさまざまなシグナルが入り乱れており、クレジット投資家は、この先を悲観的にみるか楽観的になるべきかがわかりにくい状況だ。当初は経済活動が危ぶまれた欧州地域は、ロシアのエネルギー(ガス、石油)からの脱却をスムーズに行い、暖冬の助けもあり、ほとんどのユーロ圏の経済はゆっくりとではあるが拡大している。米国では、労働市場が引き続き好調であり、2年間にわたる弱気な予想に反して、景気後退のリスクはなかなか現実にはなっていない。

しかし、多くの社債投資家は依然として警戒を崩しておらず、それには十分な根拠がある。

マクロの背景は希薄

雇用情勢は好調であるものの、世界の成長見通しは不透明だ。特に、中堅・地方銀行に対する懸念や、景気後退を示唆する国債の逆イールドカーブ形状が懸念される。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は、足元の銀行の混乱は広汎に伝播するものではなく個別的なものだと考えているが(以前の記事『一部の銀行破綻は銀行システム全体に影響を及ぼすものではない』ご参照)、銀行が今後の信用供与により慎重になることは間違いないため、それに伴い成長率見通しを下方修正した。

また、長引いている世界的なインフレも問題だ。欧州中央銀行(ECB)が利上げサイクルの終盤に入り、フェデラル・ファンド金利(FF)金利が5%台になったことで(以前の記事『The Fed and ECB Go Their Own Ways with Interest Rates…for Now』(英語)ご参照)、ほとんどの先進国市場のインフレ率は引き続き減速方向にあると予想している。しかし、インフレ率が連邦準備制度理事会(FRB)の長期目標である2%に低下するまでにあと1年かかる可能性があり、2023年後半の利下げについて、一部の市場参加者ほどハト派的な見方をするわけではない。欧州と米国では、住居関連価格と賃金のインフレが依然として注目すべき材料であり続ける。

このようなマクロ環境を考えると、社債に投資するのはややリスクが高いのではとの疑念も抱く。ファンダメンタルズ、バリュエーション、需給等の要因を考慮すると単純に弱気とは分析されないものの、投資家は選別的に臨む必要がありそうだ。

企業のファンダメンタルズは健全

一見すると、企業のファンダメンタルズは悪化しているように見え、トップライン成長も収益も減速の兆しを見せているように見える。しかし、長期的な流れが重要で、今回のファンダメンタルズの悪化は、健全な財務水準から発生するものだ。収益の伸びも利益率も、過去10年以上にわたって最も高い水準に近い。さらに、発行体はバランスシートを保守的に管理しており、営業費用と販売費用の売上高に対する比率はともに低下している(図表1)

不透明感の強いマクロ経済環境にもかかわらず、投資適格発行体の2023年1-3月期決算は総じて堅調に推移した。ABがカバーしている企業の、1-3月期の業績は、コンセンサスより良好な企業の数がコンセンサス未満に終わった企業の数を3倍以上上回っている。最も好調な業績を上げたのは、資本財や自動車など、景気後退とは相反する伝統的なシクリカル産業だった。各社の経営陣は見通しについて慎重な姿勢を示しているが、全体的な収益は、企業のファンダメンタルズに関するABの強気な見解に沿ったものだ。

社債権者にとって重要なことは、発行体が債務を支払い続けていることだ。手元資金が減少していても、インタレスト・カバレッジ・レシオは長期平均を上回っており、企業が固定負債の返済にほとんど支障をきたしていないことを示す。実際、投資適格クラスの発行体のうち、前年同期比で負債が増加している企業の割合はここ数カ月で低下し、長期平均を大きく下回っている。また、企業は過去数年間、低い利回りで債務の借り換えに成功しており、金利上昇の影響が企業の支払利息に影響していくには時間がかかると思われる。

最後に、自社株買いや特別配当の時代は終わりを告げつつあるようだ。投資適格級の発行体は、株主に還元するのではなく、キャッシュを事業活動に再投資する傾向が強まっている。これもまた、長期的な債券保有者にとってプラスになる可能性がある。

バリュエーションは魅力的

投資適格社債を検討している投資家にとって、割安なバリュエーションは今がエントリーポイントになり得る根拠だとABでは考える。米ドル建て及びユーロ建ての投資適格債の平均価格は、金利上昇の影響もあり、世界金融危機以降で最も低い水準にある。この価格低下は、市場が乱高下した場合のダウンサイドを抑制するのに役立つだろう。一方、世界の投資適格債の信用スプレッド(社債利回りと国債利回りの差)は、長期平均を上回る水準に回復している(図表2)。

米国では、国債利回りの上昇により、投資適格社債の利回りが過去十年の平均水準を大きく上回っている。歴史的に見ても、高い利回りで投資に入る場合は成功するケースが多い。

投資家の信頼を裏付ける良好な需給要因

利回りの上昇は、需給要因の改善というさらなる好材料を呼び込むことになる。米国と欧州の両方で、ファンド資金フローは2022年から逆転し、市場のボラティリティが高止まりしているにもかかわらず、高い利回りが投資適格社債戦略に投資家を引き付けている。最終的には、力強い資金フローは長期的なバリュエーションの適正化をもたらすはずだ。今後、金融政策が緩和的になったとしても、いったん高い水準まで上昇した利回りが投資家を惹きつけ続けるとABでは予想している。

需給面からは、投資適格社債の2023年の新発債券発行の動きが今のところ鈍いことも好材料となっている。新規発行債券の供給は、過去数年に比べて圧倒的に少ない状態が続いている。2022年の発行量は2021年に比べて約12%減少し、2023年4月までの発行量はさらに前年比19%減に留まり、その背景には金融セクターの新規発行が少ないことが挙げられる。

スイートスポットを求めて

もちろん、投資適格債にはさまざまなリスクとリターンの特性があり、投資家は慎重に検討を行うことが重要である。今日の不安定な環境では、格付けの高い債券はディフェンシブな投資として役立つが、ABでは、投資適格債券の中でもより低めの格付けゾーンを選択する理由もあると考えている。

直感に反するかもしれないが、ABは、厳選された銀行やテクノロジー企業が市場のボラティリティを緩衝するのに役立つと信じている。

米国銀行の優先債は魅力的なバリュエーションと堅固なファンダメンタルズを有しており、テクニカルな背景の改善から恩恵を受ける可能性がある。米銀の優先債の非金融セクターに対する価格のディスカウント幅は、過去10年以上で最も大きい水準にある。同時に、金融機関の新規発行債は2022年のこの時期と比べて39%減少しているなど、市場の需要を満たすには依然として不十分だ。

欧州の銀行は米国の銀行より割安で取引されており、米国の地方銀行が直面している最近の問題からは距離を置いた存在といえるかもしれない。また、世界的に見れば、さまざまなサイクルに左右されやすい銀行業界の中で、高格付けのカバードボンドは緩衝材として機能する面があり、これを検討するのもよいだろう。

ボラティリティの高い業種でハイリスクな企業として知られているものの、強力なビジネスモデルと弾力的な収入源を持つテクノロジー企業は、ポートフォリオのディフェンシブ性を高める可能性がある。このセクターでは、高格付けでありながらも、利回りの長い年限の債券が魅力的な利回りを提供することがある。また、BBB格の発行体のうち、キャッシュフローが良好で、投資適格の信用格付維持にコミットしている発行体については、潜在的なリスクを補ってなおスプレッド水準が魅力的なケースもある。

当面は経済に関してさまざまなニュースが混交することになりそうだ。このような状況下で、すべてを理解し、適切な資産配分を行うことは簡単なことではない。しかし、健全な企業のファンダメンタルズ、魅力的なバリュエーション、力強い資金フローを考慮すると、投資適格社債は詳細に検討するに値するとABでは考える。

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