2022年は債券利回りが上昇する中、投資家は高利回りのバンクローンに資金を逃避させた。バンクローンはクーポンが金利上昇に連動するため、金利上昇に対処できる投資先とみなされることが多い。だが、2023年は状況が異なり、バンクローンは困難な状況に直面する可能性がある。インカム収入を求める投資家はむしろ、金利リスクと信用リスクのバランスを考慮した多様なアプローチを検討すべきだとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は考える。本稿ではその理由について説明したい。
バンクローンは信用サイクルが転換する場面でぜい弱に
変動金利型のバンクローンは、環境が良ければ高水準のリターンが得られることが多い。それは、連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを続け、経済が拡大している環境だ。だが、そうした環境は長続きしないものだ。実際、潮流はすぐにでも変化する可能性があるとABではみている。現在は銀行危機で金融環境がひっ迫しつつある上(以前の記事『一部の銀行破綻は銀行システム全体に影響を及ぼすものではない』ご参照)、FRBの利上げも5月が最後になりそうだ。米国の国内総生産(GDP)は2023年後半に伸びが鈍化するとみられている。
信用サイクルが終盤にある現時点でバンクローンへのエクスポージャーを構築するのはリスクが高い。バンクローンは歴史的に、景気の下降局面でアンダーパフォームしてきた(図表1)。
その一因は、金利が上昇し始めると投資家が市場に殺到し、金利が低下し始めると市場から急いで逃げ出そうとする循環的な効果が増幅されてきたためだ。さらに、バンクローンには大きな信用リスクが伴っていることも見逃せない。それはあしもとで特に顕著になっているように見える。
ひとつには、2022年にバンクローンのクーポンが上昇したのに伴い、バンクローンを発行した企業の資本コストが上昇し、財務的に苦境に追い込まれたことが挙げられる。つまり、投資家が金利リスクを避けようとしている一方で、借り手の企業がそのリスクを負うことになった。
発行体はそうした金利リスクへのエクスポージャーの少なくとも一部はヘッジしておくべきだが、多くの企業はそれを怠ってきた。その結果、ABの分析によると、平均的なB3格のバンクローン発行体は、変動金利の債務を賄えるだけの資金が不足しているため、2023年にフリーキャッシュフローがマイナスに陥る可能性が高い。S&Pによると、B格のローンの約半数が信用不安に陥るか、格下げされるリスクがある。
それだけではない。バンクローンは信用力の弱い企業が低コストの資金調達手段として利用する傾向があるため、高利回りのバンクローンにはハイイールド債市場に比べ、格付けが低い債務が多く含まれている。実際、2009年以降、バンクローンの信用の質が悪化しているのに対し、ハイイールド債の質は改善している(図表2)。
そのため、米国経済が低成長局面に向かう中、バンクローンはハイイールド債に比べてデフォルト・リスクが高くなっている。それに加え、ハイイールド債市場では有担保債の比率が2022年12月末時点で31%と比較的高いため、デフォルト時の回収率はハイイールド債の方が高くなりそうだ。
適切なバランスを取るべき3つの理由
上述の事柄を考慮すれば、投資家はバンクローンを避け、バランスの取れたインカム投資を重視すべきである。最も効果的なアクティブ戦略の1つは、国債や質が高く金利に敏感な他の資産と、成長重視のクレジット資産を組み合わせて単一のポートフォリオを構築し、ダイナミックに運用することだ。
このバーベル型アプローチは、金利リスクと信用リスクの相関関係をうまく管理し、ある時点においてどちらを重視すべきかについて、投資家が適切な判断を下すうえで役立ち得る。負の相関を持つ複数の資産を両方使い分ける余地を作ることは、リスク資産が売り込まれた場面でドローダウンを抑える一方で、インカムや潜在的なリターンを生み出すことにつながる。
今日の市場環境では、バーベル戦略を重視することで、次の3つの大きな利点が得られる。
1)インカムの創出: 現在はリスク資産全般にわたり、利回りが何年も見られなかったほど高い水準にあり、インカム収入を求める投資家が長らく待ち望んできた投資機会が訪れている。投資家は世界的な分散投資ばかりでなく、セクターに関しても投資の分散を目指す必要がある。ハイイールド社債、エマージング・マーケット債券、証券化商品(商業用不動産担保証券(CMBS)(以前の記事『米国商業用不動産市場の見通し:CMBSでは高いクオリティの投資機会を追求』ご参照)や信用リスク移転証券(CTR)など)はより大きなクーポンの獲得源となるため、インフレから資産を守る効果も期待できる。ABの見方では、投資家は質の高いクレジットを重視し、銘柄をしっかり厳選し、流動性に留意する必要がある。どのセクターにおいても、景気の下降局面では格付けの低いクレジットが最もぜい弱性が高くなる。
2)デュレーション: 高利回りのバンクローンは通常、デュレーション(金利変動に対する感応度)がほとんど、または全くないが、国債は優れたデュレーションの源泉となり得る。質の高い国債を通じて適度な金利資産を確保することは、今日のポートフォリオにおいてとりわけ望ましいと思われる。インフレ率が鈍化し、経済が減速する中では、デュレーションは良好なパフォーマンスを示す傾向があり、グロース資産のボラティリティを相殺する役割を果たす。
3)負の相関: 2022年は株式市場と債券市場が足並みをそろえて下落するという通常とは異なる展開となり、投資家にとって身を隠す場所がほとんどなくなった。市場関係者の間では、米国国債とリスク資産が負の相関を示す時代は終わったのではないかとの声も聞かれた。だが、最近の市場の動きは、その考えが間違いであることを物語っている。2023年3月にはリスク資産が売り込まれる一方で、米国国債は力強く上昇し、リスク・オフの環境において資産クラス間に負の相関関係があることが再び明確に示された(以前の記事『The Picture Brightens for Government Bonds as Multi-Asset Diversifiers』(英語)ご参照)。復活したこの関係は今後も持続すると思われる。
サイクルの転換局面は要注意
信用サイクルが終盤を迎える中、インカム収入を求める投資家はさまざまな選択肢を慎重に検討する必要がある。金利リスクと信用リスクのバランスを取るバーベル型の戦略は、バンクローンが低迷する場面でうまく機能する可能性がある。結局のところ、今はバンクローンに投資するのに適した時期ではないとABは考える。今の潮流が続けば、投資家は変動金利のバンクローンは砂上の楼閣であることに気づくかもしれない。
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