米国の地方債のデフォルト率は、長年にわたり著しく低い水準にある。これは本来は地方債の利点とされており、プエルトリコやデトロイトの地方債がデフォルトを起こした時に大々的に取り上げられたのはそのためだ。実際にはこの事例は極めて稀な出来事である。
1970年以降、投資適格水準にある米国地方債の10年間の累積デフォルト率はわずか0.1%にすぎない(図表1)。投資適格社債のデフォルト率が2.2%であることと比べれば、地方債の高い信用力がこの一例からも裏付けられる。
なぜ米国の地方債のクレジットの質はそれほど高く、デフォルトが少ないのだろうか? その問いに応えるため、ファンダメンタル分析の基本に沿って地方債のクレジットを以下に分析する。地方債のキャッシュフローの質や予見性の高さ、それに加えて発行体の特性を理解することで、投資家はより地方債投資に安心して臨むことができる。
本稿では、米国地方債のデフォルトが滅多に起きない5つの理由について詳しく検証したい。
1) 安全性: 米国地方債の発行体は税や手数料を引き上げる権限を持っている
地方債の2つの主要タイプである一般財源債(GO債)とレベニュー債は、安定した元利金の支払いを担保するための特性を備えている。
GO債は、発行体である地方政府に対する「全面的な信頼感と信用」が裏付けとなっている。GO債は学校、交通インフラ、他の不可欠な事業に資金を提供する役割を担っているが、発行体は通常、債券の利払いや償還に必要な資金を調達するため増税する権限を持っている。多くの州や地方自治体では、GO債を発行するには有権者の承認が必要で、危機に直面しても破産を宣言することはできない。民間セクターにおいては、取引相手先からこうした支援を得られたり、または柔軟に料金を操作できるような企業はほとんどない。
レベニュー債は、公共事業、有料道路、空港などの公共サービス事業で得られる料金が裏付けとなっている。これらの料金は債務返済に充てられ、返済が困難な場合、発行体は債務返済のため利用料金を引き上げることができる。非課税のメリットを受ける大半のレベニュー債のクレジットは、事業の資本構造における最上位に位置づけられる。それが直面する典型的な問題としては、予算に計上してある経費を超える利払での調達には一定の条件を満たす必要があること、債券発行を増額するには制限があること、予期せぬイベントに備えた準備金の積立義務があるなどの安全条項が挙げられる。
地方自治体が所有する電力事業者と民間の電力会社を比較してみよう。公営の電力事業者は、債券の発行時の安全条項を踏まえ、独自に料金を設定できる。それに対し、民間の電力会社が料金を引き上げるには、独立した監督規制委員会による認可が必要になる。
2)キャッシュフロー: 安定した信頼できる収入源
地方自治体は公共サービスに課税や課金ができる権限により、安定した質の高いキャッシュフローを生み出す信頼できる収益源を確保している。
例えば、税金はさまざまな所得・収益や資産価値に課せられる。このため、GO債を発行する自治体は、裁量的な支出に依存する企業の発行体とは大きく異なる安定した収益源を持っていることになる。景気後退によって経済のある分野が大きな打撃を受けたとしても、他の分野がそれほど大きな痛手を被っていなければ、地方債発行体の中核的な収益源は比較的安定した状態を維持することができる。
足元の景気低迷局面においては、地方債の信用力は全般的に低下しているが、デフォルトを懸念するにはほど遠い状態だ。税収(所得税、売上税、財産税)や生活に不可欠な公共事業からの収入が入り続けているなど、さまざまな収入源が維持されている。これは民間セクターとは大きく異なる点で、航空会社の利用客が減ったり、人々が車を買わなくなったりすれば、民間企業の場合には収入源が枯渇することがありえる。
3)準備金: 経済の嵐を乗り切るための柔軟性
景気後退期には現金は最善の資産であるが、現在の地方政府は過去最高水準の準備金を保有している。その一因は、準備金の積み立てが義務付けられていることだ。不況を乗り切るため十分な準備金の積み立てが望ましいと考える文化や法体系が根付いていることで、GO債とレベニュー債は自然に信用が下支えされていることになる。上述したように、多くのレベニュー債には、発行要件のひとつとして、一定水準の現金準備を保有することが義務付けられている。
GO債にとっては、地方自治体が一般会計予算をどう扱っているか理解することが重要である。米国の各州はこれまで長い間、特に経済が好調な時期に準備金を積み上げてきた。そのため、大不況や新型コロナウイルスのパンデミックといった困難に見舞われた時期でも、デフォルトを起こすことなくうまく乗り切ることができた。こうした準備金の残高は、足元で過去最高水準に達している(図表2)。
地方自治体には、社債保有者や株主の利害を調整しなければならない企業に比べ、予算面で有利な点がある。一般に、債券投資家は追加的な裏付け資産として現金準備の積み立てを望むのに対し、株主は配当として利益の分配を求める。自治体は株主を満足させる必要がないため、好況時に自由に準備金を積み増すことができる。準備金の水準が高ければ、不況時でも債券の元利支払いを滞らせずに歳入の回復を待つことができる。
4)元本返済: 「ペイ・アズ・ユー・ゴー」方式が債務や借り換えリスクを低減
米国地方債の返済構造は、一般的に住宅ローンと似ており、利息と元本を組み合わせた一定額が定期的に返済される仕組みとなっている。その結果、毎年元本が減少し、それに伴い発行体の債務残高が減ることになる。そのため、景気後退時などタイミングが悪い場面で満期を迎え多額の元本返済に追い込まれるといった不確実性を避けることができる。
それとは対照的に、社債の多くは期間が5年で、満期日まで元本が返済されないことが多い。そのため、社債が満期を迎えると、発行体は再び借り入れを行い、既存の社債の元本を返済して新たな社債の利払いを開始することになる。こうした借り換えは、市場がストレスにさらされている時期には、社債発行体が市場要因に大きく影響を受ける要因となりかねない。
5)不可欠性: 住民にとって欠かせないサービス
ほとんどの地方債は住民にとって不可欠なサービスの提供を支えているため、発行体は債券保有者への支払いにとりわけ強くコミットしている。発行残高が3兆7,000億米ドルに上る米国地方債のほぼすべてが、教育、公共の安全、電気、水道、ごみ処理などの生活に不可欠なサービスと結びついている。
地域社会は、病院、有料道路、空港などをインフラを前提としている。景気が落ち込んでいる場面でも、住民がこれらのサービスを利用しなくなることは想像できない。さらに、本当に困難な状況に陥る場合、連邦政府が必要不可欠なサービスを維持するため介入することができる。例えば、新型コロナウイルスのパンデミック時には、コロナウイルス支援・救済・経済保障法(CARES法)に基づき(以前の記事『How Municipal Bond Issuers Will Navigate the Crisis』(英語)ご参照)、病院や学校など重要な機関に前例のない支援が提供されたほか、州や地方政府向けにさらなる支援が検討された。
これら5つの要因を総合的に考えれば、米国地方債のデフォルトは発生しにくく、発行体は景気後退やパンデミックなどさまざまな難局を乗り切る能力を備えていると判断することができる。
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