パブリック市場からプライベート市場への資産のシフトは、過去10年間で最も顕著なポートフォリオのローテーションの1つだった。上場している株式や債券が2022年に急速に売り込まれた後、米国の多くの州年金基金など一部のアセット・オーナーは、プライベート資産へのアロケーションが目標を上回っていることを認識している。この比率はさらに引き上げるべきなのだろうか。これは今日の戦略的資産配分にとって、最も差し迫った課題の1つである。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)の見方では、プライベート資産へのアロケーションを今後も増やし続けるべき理由はあるが、今まで以上に丁寧な対応が必要になる。

過去10年間にプライベート市場へのエクスポージャーが拡大した背景には、いくつかの要因がある。需要面では、中央銀行による潤沢な流動性供給により、幅広い資産クラスのリターン見通しが低下したことや、分散投資の必要性に投資家が対処しようとしたことがあった。供給面でも、上場株式数の減少(株価は上昇したが、株式数は減少した)や、銀行による信用供与の減少といった要因があった。こうした需給関係は現在も引き続き市場に影響を与えている。

もう少し過去にさかのぼれば、プライベート市場における運用資産は過去20年間に飛躍的な成長を遂げ、2000年代初期の1兆米ドル未満から、2021年下半期には9.3兆米ドルを超える水準まで急拡大した。2015年から2021年にかけては特に力強く拡大し、年率15%近い伸びを遂げた。けん引役となったのはベンチャー・キャピタルで年率22%拡大(図表1)したのに続き、プライベート・インフラが20.5%、プライベート・デットが15.7%の伸びを示した。

マクロ経済環境の急激な変化・・・そして痛みを伴う 可能性

マクロ環境が市場に大きな影響を与えているため、資産配分におけるプライベート資産の役割は、他の要因と切り離して判断することはできない。ABの見方では、新型コロナウイルスのパンデミック後の世界にはマクロ面で新たな均衡が生まれており、それに対処する必要が生じている。多くの投資家(実質的な、またはインフレ調整後の負債を持つ投資家)は、実質シャープ・レシオが過去40年間の水準よりも低くなるという厳しい現実に直面している(ABのブラックブック『コロナ禍の教訓を活かす』ご参照)。

この結論には、以下のようなさまざまな可変要因がある。

  • インフレ率はパンデミック前を上回る長期的な均衡水準に到達する見通しで、購買力を維持するためのハードルが高くなっている。
  • 成長見通しがここ数十年の標準的な水準よりも低くなっているのに加え、企業の利益率低下による影響も生じている。
  • 今後はボラティリティが高水準で推移する可能性がある。
  • 債券は分散投資先としての効果が薄れるとみており、2022年はこの点について投資家に警告を発する形となった。
  • 市場にトレンドが生まれにくくなり、パッシブ・ベータから得られるリターンが低下する中で、アクティブ運用の果たす役割が大きくなる可能性がある。

プライベート資産へのエクスポージャーを拡大する理由の再検討

プライベート資産が人気を集めている理由は、ポートフォリオの資産を配分する上でさまざまなタイプのリターン源泉にアクセスしたいという投資家の需要に対応できるからである。その背景には、リターンが平均を下回ると見込まれることや、分散投資の必要性に急いで対処する必要があると投資家が考えていることがある。

しかし、プライベート資産にどれだけの金額を支払い、それらの資産がもたらすメリットと引き換えにどんなリスクを取ることになるのだろうか?それに対する伝統的な答えは、プライベート資産から得られる非流動性プレミアムは長期的な時間軸を持つ投資家にとって重要なポートフォリオ構成要素になる、というものだ。だが、現在では当然ながら、プライベート資産のすべてのサブ・カテゴリーにおいて、非流動性プレミアムが今でも存在するのかどうかが精査されている。例えば、プライベート・エクイティを全般的に見れば、実際に非流動性プレミアムがあるかどうかははっきりしない。

プライベート市場の一部は、パブリック市場ではあまり取引されない分野へのアクセスを投資家に提供している。それは特に、インフラストラクチャー、プライベート・デットの一部、不動産、天然資源などに当てはまる。プライベート資産の場合は投資対象に対してコントロールできるというメリットが長らく重要な要素として指摘されてきたが、本稿では、単一の資産やファンドのレベルでこうしたメリットがあることを証明できるかどうかについては論じない。

むしろ、ロング・オンリーのパッシブ「ベータ」によるリターンが低下し、市場がトレンドに左右されにくくなり、景気サイクルの影響力が再び大きくなる世界において、アクティブなアプローチに対する注目を高めているマクロ的な理由について検証したいと考えている。こうした環境では、最終投資家のリターンにとって、アクティブなリターン源泉の比率が高まる見通しで(以前の記事『The (Renewed) Case for Active Investing』(英語)ご参照)、そうした意味では当然ながらプライベート資産が重要な役割を果たすことになる。

例えば、プライベート・エクイティには企業のポリシーを決定する力があり、プライベート・デットには潜在的なデフォルト・サイクルを管理する能力がある。プライベート資産がアクティブなリターンを独占していると考えるのは行きすぎかもしれないが、それは全般的なアクティブ・アロケーションの大きな一翼を担っているのは間違いないだろう。

分散投資を追求する動きも、プライベート資産へのエクスポージャーを拡大しようとする風潮に影響を与えている。2022年の大きな衝撃のひとつは、高格付け債が全般的に株式のリスクを分散する効果を発揮できなかったことだ。投資家はこうした状況に慣れる必要がある。これは、ポートフォリオの観点や設計が大きく転換することを示唆しており(以前の記事『分散効果が消滅した時の世界』ご参照)、どこに分散投資するかがこれまで以上に大きな関心事となる。こうした分散については、時価評価されない「偽」の分散と、パブリック市場では購入しにくい分野へのエクスポージャーから得られる効果的な分散を切り離して考える必要がある。

伝統的な金融機関が信用供与を控えていることが一因となり、供給面の要因もプライベート資産への投資拡大を後押ししている。米国では、過去10年間の信用供与の純増分は、すべて非伝統的な金融機関が提供してきた。同様に、先進国市場における上場株式数も減少している(図表2)。米国の株式市場や、先進国全体の株式市場の時価総額は増加しているが、それは株価が上昇したからにほかならない。株式の新規発行よりも自社株買いが多いことから、流通株式数は減少している。

MSCIオール・カントリー・ワールド(ACWI)指数は、新興国企業による積極的な株式発行が寄与して株式数がわずかに増加したが、過去数十年と比べれば、市場を幅広くカバーするこの指数でも新規発行が著しく減っている。つまり、他の条件が同じであれば、株式やクレジットのプレミアムを得ようとするアセット・オーナーは、20年前よりもプライベート市場へのアロケーションを増やさなくてはならないということだ。ただし、ネットの供給がプライベート・エクイティやプライベート・クレジットの需要をけん引しているが、同様の見方は、供給が著しく過剰になっている政府債には当てはまらない(以前のリサーチペーパー『2023 年の戦略的投資見通し:アセット・オーナーの戦略的資産配分に関する4 つの問題』ご参照)。

プライベート資産へのエクスポージャーを制限する 理由を再検討

プライベート資産へのエクスポージャーを拡大すべきだという主張が強まっていることに対し、異論を唱える声もある。流動性ニーズが持続的に高まるというABの見解は、最も重要な要因となる可能性がある。流動性ニーズが高まると考える主な理由は3つある。それは、1)量的緩和から量的引き締めへの移行に伴うマクロ流動性の低下、2)アセット・オーナーによる流動性の低いポートフォリオへの移行、3)パブリック市場の流動性が一段と不安定になるという認識、である。これらの要因はどれも、投資家にとって流動性がより大きな関心事となっていることを示している。

この点で、英国で2022年に起こった、負債主導型投資(LDI)の危機は炭鉱のカナリア(何らかの危険が迫っていることを知らせる前兆)だとABは考えている。このエピソードにはある程度特殊性があったが、金利の方向が変化し、ボラティリティが高まった時に、アセット・オーナーの流動性ニーズがいかに突然変化しうるかを示す最初の事例となった。ある意味では、こうした動きはプライベート資産への投資フローを鈍化させることになりそうだ。しかし、「プライベート」の範ちゅうに入る一部の資産には、短期でキャッシュを創出できる資産など、非常に特殊な流動性ニーズに対処できるものもあるため、より綿密な検討が必要になるだろう。

また、(当然ながら)手数料にも焦点が当てられている。かつては、手数料を巡る議論はパブリック市場においてアクティブ投資とパッシブ投資のどちらが有利かといった観点が中心だったが、ポートフォリオがアクティブからパッシブに、パブリック市場からプライベート市場へと二重に移行しているため、この視点は重要性が薄れている。現在では、オルタナティブ資産の手数料に大きな焦点が当てられている。アクティブ・アロケーションのすべての分野で重要な指標は手数料控除後のリターンで、それに基づき、プライベート資産が付加価値をもたらすことを示さなければならない。

これらをすべてまとめれば、今日の投資家のポートフォリオにおけるプライベート資産の長所と短所について概要を示すことができる(図表3)。過去10年にわたりプライベート市場への資産配分を促してきた要因はどれも依然として残っており、むしろ影響力が強くなっている。しかし、新たな制約も生じているため、戦略的資産配分に関する議論は、これらの要因の相互作用と、それが個人投資家だけでなくマクロレベルでもどんな意味を持つのかに焦点を当てる必要がある。

総括

プライベート資産に投資する理由は、これまでとは異なる投資環境を踏まえて考える必要がある。過去10年間にプライベート資産への資金流入を促した要因はそのまま残っているが、2022年のパブリック市場の下落に伴う分母効果(デノミネーター・エフェクト)や流動性ニーズの高まりが新たな課題となっている。

これらを総合的に見てもなお、プライベート資産へのエクスポージャーを拡大すべき理由は依然として存在する。同時に、非流動的な資産へのエクスポージャーを構築することによって、投資家が何を得られるかという問題が、今以上に重視されることになりそうだ。それには、アクティブ投資戦略への幅広いアロケーションの一部となる非流動性プレミアムと、分散投資の役割を区別して考える必要がある。

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