地方債市場にとって、2022年は高インフレと金利上昇を受けて価格が下落し、過去最悪の年の1つとなった。ブルームバーグ地方債指数は年間に8.53%下落した。格付けが中程度や高利回りのクレジット・セクターのスプレッドが3倍に拡大する中で利回りが10年ぶりの高水準に達し、不安に駆られた投資家は一斉に市場から逃げ出した。第4四半期には市場環境が改善し、大幅に上昇した利回りとはるかに良好なリターン見通しに惹かれた一部の投資家が市場に戻ってきた。
2023年は地方債にとってはるかに好ましい年になる見通しで、再びインカム創出や資産保全といった伝統的な役割を果たすとみられるほか、株式のボラティリティを相殺する効果も期待できる。しかし、地方債の長期的な展望は明るいものの、短期的に乗り越えなくてはならないハードルもいくつか残っている。
目先は波乱含みだが、長期的には市場環境が安定へ
インフレ率が依然として高止まっているほか、米連邦準備制度理事会(FRB)がインフレと闘うためさらなる利上げを示唆しており(以前の記事 『次のステージへ進む米国の利上げサイクル』ご参照)、利回りがさらに上昇する可能性があることから、2023年初めは不安定な展開が続くと予想される(以前の記事 『債券市場の見通し: 均衡点を見つけ出す』ご参照)。
しかし、FRBと市場の見通しにはギャップがあり、市場ではターミナルレート(利上げの到達点)がFRBの予想よりも低くなり、利下げに転じるのも早くなる可能性を織り込んでいる。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は、ターミナルレートが4.75~5%になると予想しており、それはFRBが示唆しているよりも若干低い水準である。
利回りは今後数カ月の間にやや上昇する可能性があるが、すでにかなり上昇していることから、さらなる利上げが実施されたとしても、その影響はさほど大きくならないと思われる。ABのリサーチによると、現在の利回り水準を考慮すれば、米国10年国債の利回りが1%程度上昇しない限り、中期年限の地方債のリターンがマイナスに転じることはなさそうだ。FRBの利上げがターミナルレートに近づくのに伴い、国債利回りの上昇ペースが鈍化しそうなことを踏まえれば、利回りがそれほど上昇することも考えにくい。
おそらくそれ以上に興味深いのは、妥当な金利シナリオの下で想定しうるトータルのリターンのレンジだ。米国10年国債の利回りが今後12カ月間に3%まで低下すると仮定すれば、最低利回り4%、期間6年、平均信用格付けがA+のポートフォリオは、約6%上昇する可能性がある。逆に、米国10年国債の利回りが4.25%に上昇した場合でも、リターンは2%近くを保ちそうだ。ABが予想するように信用スプレッドが縮小した場合は、これらのシナリオよりもリターンが1~3%高まる可能性が高い。2023年はポートフォリオの当初利回りが2022年よりもはるかに高いため、潜在的なリターンのレンジは上方に傾いている。
一方、税収が落ち込み、最近は予算不足が話題を集めているものの、地方債の発行体は依然として健全な状態にある。経済はいずれ減速に向かい始めるだろうが、非常時に備えた財政安定化基金(”rainy day” reserve)が潤沢であることと予算が柔軟であることにより、地方政府はそれを乗り切ることができると思われる。財政安定化基金の規模は、世界金融危機や2020年のコロナ禍に伴う景気後退以前に比べ、大幅に増加している。こうした信用力の高さが、6四半期連続で発行体格付けの引き上げが格下げを上回った理由であり、デフォルトが発生することが極端に少ないことの背景にある(以前の記事 『Five Reasons Municipals Have Rarely Defaulted』(英語)ご参照)。
しかも、今後は景気後退に陥ったとしても、世界金融危機や2020年のロックダウン時よりも、はるかに穏やかなものにとどまりそうだ。例えば、2000年代初めにさほど深刻でない景気後退に入った場面において、当時の格付けBBBの地方債の信用スプレッドは、現在の同格の債券のスプレッドよりもタイトな水準でピークをつけた。そのことは、たとえ景気後退に突入しても、地方債の信用スプレッドが大幅に拡大することはなさそうなことを意味している。
2023年は時間が経つのに伴い市場環境が改善するとみられるが、投資家は、その過程で多少の波乱が起きる可能性を念頭に入れておく必要がある。以下では、それがもたらす問題や投資機会について説明したい。
2023年に柔軟性を高める5つの戦略
たとえ市場環境が明るくなっても、当面はボラティリティの高い展開が続きそうだ。ポートフォリオは、ボラタイルな市場環境において機動的にポジションを対応させるため、柔軟に運用する必要がある。しかし、2023年内にインフレが鈍化し、経済が減速するのに伴い、利回りの上昇圧力は和らぐとABでは予想している。地方債の投資家は、状況の変化に応じて、市場における多くのツールを活用する必要がある。
1. クレジット・リスクに前向きに目を向ける:
2022年は格付けが中程度や高利回りの地方債のスプレッドが著しく拡大した。例えば、格付けBBBの地方債のスプレッドは年末までに3倍に拡大し、150ベーシス・ポイントに達した。現在は、地方債のクレジット・セクターは利回りが通常よりも上乗せされているだけでなく、AAAなど高格付けの地方債よりも債券のスプレッドが縮小しやすいため、相対的に価格が上昇する可能性がある。医療や有料道路などのセクターにおけるワイドなスプレッドは特に魅力的だが、2023年に経済が悪化する可能性もあるため、慎重なリサーチや発行体の選別が重要になる。
また、クレジットは潜在的なインカム収入を大幅に増やす可能性があるが、発行体のファンダメンタルズが依然として健全なため、必ずしもリスクが著しく高まるわけではない。実際、景気後退局面においても、地方債はデフォルトや格下げが起きることはほとんどない。格付けが中程度や高利回りのクレジットに対する需要が早々にプラスに転じると予想しているのは、それが理由だ。ABの見方では、2023年には地方債の中でクレジットリスクを高めた方がアウトパフォームする可能性が高い。
2. 国債などへの市場横断的な投資機会を探る:
利回りを取り巻く環境次第では、潜在的なリターンの追求やリスク管理のため、地方債以外への機動的な投資が必要になる場合がある。例えば、現時点では、課税を考慮すると、短期の国債の方が短期の地方債に比べて利回りが高くなっている。しかし、この関係は容易に変わりやすいため、柔軟に対応することが最善の対策となる。
3. バーベル型の満期:
デュレーション目標を達成するための全天候型戦略は存在しない。金利見通しやイールドカーブの形状によっては、ラダー型やブレット型のアプローチが最も効果的に機能するかもしれない。しかし、短期債と長期債を組み合わせるバーベル型のアプローチは、現在の環境において好ましいパフォーマンスをもたらす可能性がある。特に、地方自治体のイールドカーブで長短金利差の縮小が続く場合には、その魅力が高まる。
4. デュレーション目標をニュートラルに:
金利サイクルが終わりに近づくのに伴い、金利リスクを縮小することはもはや意味を持たなくなる。しかし、投資家は環境の変化に応じて、金利リスクを乗り切るため、戦術的に小さな変更を行う準備を整えておく必要がある。例えば、インフレが抑制され、成長が鈍化している場合、デュレーションを長期化することが賢明かもしれない。なぜなら、それらはどちらも、利回りがこれ以上上昇しないか、または低下する可能性を示唆しているからだ。
5. テクノロジーの導入で優位に:
地方債市場に投資するには100万を超す銘柄から選択しなければならず、極めて効率が悪い。ビッグデータ市場であるため、投資家はテクノロジーを活用することで大きな優位性を得ることができる。これを得意とするマネジャーは(以前の記事 『Technology Enables Municipal Investing at the Speed of Alpha』(英語)ご参照)、最先端のテクノロジーを駆使してデータの処理や取引を行い、価格の非効率性を最大限に活用することができる。
利回りの魅力が著しく高まったことで、地方債の投資家は最悪期を脱した可能性がある。不透明な資金流出の状況を考えると、2023年初めにはさらなる波乱があるかもしれないが、中・長期的な見通しは極めて明るくなっている。歴史を振り返れば、地方債市場は資金が流出した翌年には大きな回復を遂げており、市場が回復に向かうという見方を支えている。
インフレや金利上昇による影響についてはまだ不明確な状況が続くかもしれないが、忍耐強く柔軟な戦略は、これらや他の要因が変化するのに伴い、投資リターンに貢献すると思われる。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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