大相撲では、いったん横綱に昇進した力士は降格しない。しかし、相撲が競技である以上、衰えない力士もまたいない。したがって、期待に沿えない「弱い横綱」が常に存在し得る。「先進国」という概念も同じで、いったんこのカテゴリーに入ると通常は脱落することがない。高齢化などを背景に縮小均衡を目指す「成熟国」なるカテゴリーがあっても良さそうであるが、資本市場で受けの良いアイディアではないだろう。
こうした中、イタリアは先進国の中に混じった新興国のような存在となっている。足元の債券市場におけるイタリア国債の動向は、「先進国」の名の下に寄せられた同国債への信頼と、イタリアの政治経済の実態とのかい離を白日の下にさらしている。
イタリアの問題はユーロ全域の問題でもある
イタリアは、遠くローマの時代に覇権国であったし、ルネサンス時代以降は欧州の文化を主導した歴史もあり、さらにユーロの機軸国でもあることなどから、先進国の代表たるG7のメンバー国である。しかし、そうした歴史的な背景をよそに、資本市場がイタリアにつける「値段」は先進国としてのブランド代を含まないものとなっている。5月にイタリアの10年債利回りは一時3%超ににまで上昇した。これは、豊かな歴史を誇るものの、資本市場では新興国とみなされているポーランドやハンガリーと同水準である(図表1)。
また、債券市場におけるイタリア国債は欧州中央銀行(ECB)という巨大な買手に支援された特別な債券でもある。そのバイアスを除去するために、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)でイタリアの評価を見てみよう。図表2は5年物CDSのスプレッド水準で、上昇はデフォルトの織り込み度合いを示す。足元ではイタリアとトルコのCDSのスプレッドはほぼ同水準になっている。また、欧州債務危機の渦中にあった2011-2013年においては、イタリアのCDSのスプレッドがトルコを大幅に上回っていたことがわかる。
債務返済能力という点では、イタリアの信用格付がBBB格でトルコのBB格を上回ることに鑑みると、この両国のCDSの水準が意味するところは興味深い。イタリアのCDSは、イタリア単独の要素以外の問題をも織り込んでいると解釈できないだろうか。つまり、イタリアにまつわるヘッドラインはユーロという単一通貨システムに対する懐疑のバロメータではないか?ということだ。
「危機の波及」に対処する方法
通常、新興国で信用危機が生じれば、金利引上げや国際通貨基金(IMF)などの支援で対抗する。イタリアの場合、これがECBの金融緩和拡大やユーロの加盟国であることによる通貨安定効果に置き換わるだろう。しかし、欧州では財政を利用した危機解決についてはユーロ加盟国間で根深い意見の分断があり、そのために欧州周辺国の国債を買い支えてきたECBは、現在その量的緩和政策の縮小をまさに議論しようとしている矢先だ。米国をはじめ、「危機状態からの正常化」というテーマで資本市場は走ってきたが、再び危機対応に逆戻りするのかということを、市場は不安に感じている。
2000年代以降、リーマン・ショックやバーナンキ・ショックなどの経験を経て学んだことは、新興国の危機は新興国発で起こる訳ではないということだ。それは常に、新興国に資金を投入してきた先進国側の都合が変わることで起こる。金融環境指数(図表3)を見ると、2017年の同指数の改善に反映された「適温相場環境」が着々と巻き戻されつつあることがわかる。
ローマ帝国没落の原因のひとつに「パンとサーカス」(=愚民政策の意)がある。まさに、いまイタリアに広がるポピュリズムにより、同国に向けられた投資への不安が高まり、「欧州問題」が再びぶり返す可能性が出てきている。こうした事態に対処するためには、先進国の変調を見て新興国のどこに影響があるかを見抜く全方位の視点や、債券市場の動きがリスク資産にどのように伝播しうるかを分析する多様な資産運用にわたる知見、アクティブにエクスポージャーを調整できる機動的なアプローチが重要であろう。
当資料は、2018年5月31日現在の情報を基にアライアンス・バーンスタイン株式会社が作成した資料であり、いかなる場合も当資料に記載されている情報は、投資助言としてみなされません。当資料は信用できると判断した情報をもとに作成しておりますが、その正確性、完全性を保証するものではありません。また当資料の記載内容、データ等は今後予告なしに変更することがあります。当資料で使用している指数等に係る著作権等の知的財産権、その他一切の権利は、当該指数等の開発元または公表元に帰属します。アライアンス・バーンスタインおよびABはアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーとその傘下の関連会社を含みます。アライアンス・バーンスタイン株式会社は、ABの日本拠点です。
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