2018年の債券市場は、予想どおり波乱に満ちた展開となった(以前の記事『Global Bond Markets to Enter New Phase in 2018』(英語)ご参照)。上半期に力強く成長した世界経済は、下半期には鈍化した。投資家にとってそれ以上に重要なことは、緩和マネーの時代が終わりつつあることが明らかになってきたことだろう。それに伴い、右肩上がりで進んできたリスク資産市場の上昇も終わりを告げたように見える。貿易を巡る保護主義や他の政治的脅威にも警戒が必要だ。

たとえ事前に準備していたとしても、うまく乗り切るのは難しい場面もしばしば訪れた。特に10-12月期は、下げ局面が長期にわたって続き、ほぼすべての主要資産クラスが巻き込まれた。米国と欧州では信用スプレッドの拡大に伴って債券ファンドからの資金流出が膨らんだほか、米国のイールドカーブが一部逆転したことから景気後退への懸念が広がった。

2019年も同じような混乱が続くのだろうか? その可能性は大いにある。金融市場は異例なほど順風満帆だった市場環境から、成長が鈍化し、流動性も低下し、政治リスクがまん延する不安定な環境へと移行しつつある。それは、困難な投資環境が続くことを意味する。

ここでは、投資家が現在の市場環境を乗り切るのに有用な3つの大きなテーマに注目してみよう。

1. 景気後退ではなく、景気減速 

世界経済がプラス成長を維持している中、各国の中央銀行は、極めて緩和的だった金融政策の巻き戻しを続けている。米連邦準備制度理事会(FRB)は2015年以降9度にわたって政策金利を引き上げると同時に、バランスシートを縮小している。欧州中央銀行(ECB)も2018年末に量的緩和プログラムを打ち切った。日本銀行の債券買い入れペースも満期償還を含む純額ベースでは鈍化し、2019年は低水準にとどまる可能性が高い(図表)。

金融政策は依然として緩和的だが、流動性は引き締まり始めている.png

こうした動きを受けて、米国債利回りは全般的に上昇したが、残存期限が最長ゾーンの上昇幅はそれほどでもない。その結果、イールドカーブがフラット化したが、こうした金利動向はしばしば景気後退の前触れと解釈される。過去の推移を見ると、2年物と10年物の利回りが逆転した時に景気後退につながるケースが多い。両者の利回りはまだ逆転していないが、著しく接近している。

しかし、今回については、ABでは米国経済に関しても世界経済に関しても、景気後退が近づいているとは考えていない。現時点における米国のイールドカーブの形状は、FRBの引き締めが米国経済にとっては「適度」であるものの世界経済や金融市場にとっては行き過ぎだという投資家の懸念を反映したものだとABでは考えている。2年債と10年債の利回りは2019年のどこかで逆転するかもしれないが、それでも逆イールドが発生してから実際に景気後退に陥るまでには2年近くかかることもある。

それに加え、2018年初めと比べれば、FRBはハードランディングを回避しつつ経済を減速させることが容易な状況にある。これは、市場がある程度FRBの代わりに課題をこなしたからである。米国では、資本市場の下落によって実質的に金融環境が引き締められたため(ご参照:National Financial Conditions Index (NFCI) (英語))、FRBは成長やインフレ率見通しをやや引き下げることができた。そしてその結果、利上げペースを緩める柔軟性を手にしている(以前の記事『Fewer Fed Rate Hikes in Store—But Not Because the Economy’s Faltering』(英語)ご参照)。

これを受け、ABではFRB による2019年の利上げに関する予測を2回に引き下げた。これはFRB自身による予想の中間値と同じであるが、市場の予想は上回っている。多くの投資家は、米国経済についてABよりも悲観的な見方をしている。しかし、米国の労働市場や消費者は依然として健全な状態にあるほか、インフレ率は2%前後で推移し、翌日物金利もわずかに上向いているに過ぎない。最近の原油価格の下落は、当面のインフレ率をFRBの目標である2%を下回る水準にとどめる役割を果たしそうであることから、FRBにとってはタカ派的な姿勢を和らげる余地が生まれている。

さらに、世界的な景気後退が近づいているとも考えにくい。世界経済は景気循環のピークを過ぎたと見られ、また金利上昇や貿易摩擦が企業の景況感を悪化させていることから、ABでも2019年は主要国経済の成長が鈍化すると予想している。しかし、それは景気後退ではなく、長期トレンド並みの成長率への鈍化である(以前の記事『経済成長とインフレのバランス、2019年はやや悪化へ 』ご参照)。

2. システミックなリスクに留意  

それでもなお、成長見通しを脅かすリスクを無視することはできない。

FRBによる利上げや、FRB、ECB、日銀等のバランスシートに関する金融政策の変更は、プラスにもマイナスにも作用する可能性がある。例えば、金利が中立的な水準を「わずかに下回っている」とした昨年11月のパウエルFRB議長のコメントに対し、市場は好意的な反応を示した。それは、金利が中立的な水準から「遠く離れている」としていた以前のコメントを修正したものだったからだ。しかし、市場を引き続き味方につけるためには、FRBは言葉と行動を一致させる必要がある。

もう1つのリスクは、米国の財政赤字が持続不可能なほど膨張しているということだ。完全雇用の下で成長している経済においては、1兆米ドルという2019年度に予想されている財政赤字は異常事態で、まず景気が過熱し、次に景気後退に陥るという、古典的な好不況のパターンを引き起こす可能性がある。しかも、景気減速はさらに赤字を大きく拡大させると思われる。歴史的に、景気拡大局面は赤字を拡大するのではなく、縮小するチャンスとして用いられてきた。ABでは、今回の好況時に過去最高水準の軍事支出や減税によって赤字を拡大させた政策は間違いだったと考えている。

米中の貿易戦争が米国企業に及ぼす影響や、貿易依存度の高い世界の国々が被る影響についても警戒感を持って注視しており、決算発表シーズンが本格化する前に通商交渉が解決の方向に向かうことを期待している。

それに加え、貿易戦争の激化は中国経済の弱体化につながり、世界の成長見通しを悪化させる恐れがある。現在ABでは、中国の成長率は2018年の6.5%から今年は6.2%に鈍化すると予測している。しかし、急激な景気減速を食い止めるには大規模かつタイムリーな景気刺激策を講じる必要がありそうだ。それが実施されなければ、中国の成長率は見通しを大幅に下回りかねない。特に、それに伴って人民元が急落した場合には、世界経済やコモディティ市場にデフレの波を引き起こす恐れがある。

英国のEU離脱(ブレグジット)を巡る不透明感や、財政赤字を巡るイタリアと欧州委員会の対立からも目が離せない。この2つの問題は密接に絡み合う可能性がある。例えば、もし英国が合意のないままEUを離脱すれば、その衝撃波は欧州全体に広がり、イタリアの債務の持続可能性を巡る懸念に拍車がかかりそうだ。

最後に、金融市場における流動性の引き締まりも注視が必要だ。ECBが量的緩和プログラムを打ち切り、2019年後半に利上げする方向に向けて政策を進めれば、FRBのバランスシート縮小によってすでに引き締まり始めている流動性は、おそらくさらに悪化するだろう。

総合的に判断すれば、金融環境は引き締まりつつあり、マクロ経済や政治的なリスクにより、2019年は全般的に不安定な市場環境が続くものと思われる。こうした環境において、投資家は投資をやめれば良いというわけではないが、選別的な姿勢が求められる。

3. 買い場を探る: 市場から目を離してはならない 

現在は国債、クレジットともに利回りが上昇しているため、債券セクターから得られる期待リターンは以前よりも大きくなっている。クレジットのリターンが2年続けてマイナスとなることは滅多にない上、国債とクレジットの双方がアンダーパフォームすれば、それ以降の期間は全般的なリターンが高くなりがちなことを歴史は語っている。

ボラティリティと潜在的なリターンがどちらも高い環境においては、債券ポートフォリオは「デュレーション」を維持することが重要である。これは、金利が上昇あるいは下落するリスクへのエクスポージャーを保有することを意味する。また、投資家は保有を国債だけに限るべきではない。クレジットにおける価格の歪みを利用し、価格が下落した場面でエクスポージャーを積み増す機会も探らなくてはならない。

こうした投資行動には慎重な判断が求められる。売りのモメンタムが依然として強く、クレジットのエクスポージャーを拡大する際には、慎重かつケース・バイ・ケースのアプローチが必要となる。例えば、米国の投資適格債はスプレッドが過去1年間で拡大したため、一段と魅力的な価格水準となった。しかし、平均的な信用の質は低下し、格付がBBBの産業セクター発行体は債務比率が拡大した(以前の記事『Will Fallen Angels Disrupt US Credit Markets?』(英語)ご参照)。金利が上昇する環境においては、一部の証券は現在のバリュエーションでも将来のリターンが圧迫される可能性がある。ABでは、引き続きエクスポージャー拡大に青信号を灯す要因を注視していく方針である。

ハイイールド債の利回りも2017年に比べはるかに高い水準にある(以前の記事『Keep Your (High) Income On Track In 2019』(英語、動画)ご参照)。しかし、投資適格未満の企業への投資に際しては、選別的なスタンスで投資することが重要だ。CCC格企業のように価格下落リスクが大きな銘柄を避け、ファンダメンタルズが強力な企業を選ぶ必要がある。米国の住宅価格は、今後ペースこそ鈍化するものの、引き続き上昇すると予想されるため(以前の記事『Is the US Housing Market Headed for a Correction?』(英語)ご参照)、住宅ローンをまとめた証券の一種である高利回りの信用リスク移転証券(CRT)も依然として魅力的である。

新興国債券も、他のリスク資産と同様、引き続き逆風に直面している。金利が上昇し、米ドルが強く、市場の流動性は低下している。こうした市場環境において、投資家は資産の基本的なファンダメンタルズを無視して高利回りを追求することはできない。

幸いなことに、新興国債券の一部はファンダメンタルズが依然として力強く、外的ショックに対しても抵抗力を持っている(以前の記事『2019年の新興国債券は心配ご無用』ご参照)。しかも昨年の幅広い急落により、過去の水準と比べても、他のリスク資産と比較しても、バリュエーションが魅力的になっている。

しっかりと課題をこなす

高水準のボラティリティが続くとみられるため、投資家はぬかりなく課題をこなして行く必要がある。ポートフォリオ全体のリスクを、経済、政治、その他の幅広い要因にわたり慎重に管理することが重要である。これには、既存の投資を安易に放棄しないことや、市場が下げた局面を利用して割安な価格で資産を買い入れることをも意味する。このようなアプローチを守ることにより、投資家は市場が困難な局面に直面しても、確信を持って乗り切ることができるだろう。

 

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