2019年は金利が一段と低下した1年となった。米国で金融政策正常化が頓挫したほか、先進国・新興国のいずれにおいても利下げが可能な国は政策金利引き下げを進めた。長期金利はこうした政策姿勢の反転を先取りする格好で大きく低下したため、米国の利上げが終わってもなお為替ヘッジ・コスト考慮後の外国債券の利回りは厳しい環境だ。しかし、それでも債券投資が資産運用において果たす役割は引き続き存在するし、今後も債券運用からのリターンを十分に獲得すべく投資家は多種多様な工夫を凝らしていく必要があるだろう。

マイナス金利の債券を買う投資家

債券は金融商品の一種であるので、買い手が多いことによって価格が上昇し金利が下がったわけだが、魅力のない低い金利水準になってからも売られることなく安定しているのはなぜだろうか?

10年債に至るまで利回りがマイナスであるドイツ国債について見てみると、外国人投資家が足元では2015年以来の買い越しに転じている。また、日本についても、マイナス利回りでの入札が繰り返されている短期国債の海外保有比率は70%超まで上昇した(注1)。外国人投資家がこうしてマイナス金利の債券にわざわざ投資する背景には、相対的な需要が高い通貨から低い通貨に交換する際に有利な条件を得られる場合や、外国政府当局が外貨準備分散を目指す場合など、個々の事情があると思われる。単純に利回りがマイナスだからといって、債券に投資するニーズがなくなるわけではない点を改めて認識させられる。

低金利の債券に投資成果はあったのか?

では、マイナス利回りの債券に投資することで、本当に投資成果が得られるのだろうか? 主要国の債券指数の利回りと、仮に指数に投資した投資家がいた場合に各年に得たリターン(以下、トータル・リターン)の実績を図表1で比較してみた。このサンプルから読み取れるのは、利回りとトータル・リターンはかなり違うということだ。全ての債券を満期まで持ちきれば当初の利回りがそのままトータル・リターンになるが、一定期間だけを切り取った場合は必ずしもそうではない。金利が動く事によるキャピタル・ゲインやロスの発生に加え、時間経過に伴うロールダウン効果がどれだけ享受できるかなど、トータル・リターンは運用期間中の環境に影響を受ける。このため、極めて金利水準が低いユーロ圏でさえ、おおむね利回りを上回るトータル・リターンが得られている(図表2)。少なくともこれまでは、低金利の債券にも投資成果があったのだ。

主要国債券指数: 過去10年の平均利回りと実績トータル・リターンの比較.png

ユーロ圏総合債券指数: 各年の利回りとトータル・リターン.png

債券投資を利回りだけで判断してはいけない

2019年は米国での長短金利差逆転が話題になったが、問題は米国にとどまらない。FTSE世界国債インデックス(WGBI)構成国の長短金利差を2018年末と2019年11月末で比較すると、意外にも米国以外の国のほうが米国よりも縮小したことがわかる(図表3)。つまり、ほとんどの地域で債券投資に伴って得られるロールダウン効果は小さくなっているのだ。金利水準が下がったことでインカム収益も落ちている。これからの債券投資の成果は、インカム水準やロールダウン効果よりも、いっそう投資期間中の金利動向に左右されやすくなっているのではないか 。

WGBI 構成国の長短金利差と2018年末からの変化幅.png

しかし、インカム収益が心もとないからと言って、過度に悲観する必要はない。マイナス金利政策が当たり前になった結果、景気が悪化したりリスク環境が悪くなった時には、債券利回りがゼロを下限とすることなく下がる余地ができたからだ。債券投資から得られるリターンは、確実性のあるインカムに裏打ちされたものから、より市場環境を反映したキャピタル・ゲインに依存する色彩を帯びてきたと言えるだろう。

構造変化に対応する発想の転換

このような債券投資のリターンの構造変化を踏まえると、現在、債券に投資するにあたっては、2つの工夫が有効ではないかとみている。1つ目は、投資する瞬間の利回りのみならず、投資期間を通じて債券保有が自らのポートフォリオにどのような効果をもたらすかを想定しておくことだ。利回りはパッとしなくても、安全資産として投資の分散効果を求めるという認識は重要である。また、低い利回りに幻滅するあまり、無理に利回りの高い投資対象を求めることで意図せざるリスクを取り過ぎてしまうことにも注意が必要だ。

そして、もう1つの工夫は、個々の投資債券の残存年数に留意したポートフォリオを構築することだ。債券は値下がりすればその分金利が上がり、将来の期待リターンは高くなる。これは、価格が一時的に下落しても、デフォルトをしない限り債券の価格は満期までの期間が短くなるに従って額面価格へ近づいていく特性があるためだ。また、保有期間が長ければそれに相応するインカム(クーポン)を確保することにもなる。プラスの金利が残っている市場を狙うにしても、投資期間を長く確保すると共に、債券の利回りと満期の組み合わせを多様化することで収益獲得の確度を高めることができるだろう。

逆に言えば、このような考慮をせず債券投資に臨むことは、低金利を甘んじて受け入れるリスクを自ら高めているということではないか。本稿で述べた債券市場の構造的変化により、機動的に収益機会を捉えるアクティブ運用が真価を発揮しなくてはならない局面が訪れていると考える。

(注1) 財務省 「国債等の保有者別内訳」令和元年6月末(速報)による
 

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