コロナショックの拡大に伴い、投資適格級の新興国債券の価格が下落し、利回りが過去最高を更新した。しかし、このセクターは、実際には健全な信用ファンダメンタルズを誇り、デフォルト・リスクが低いと考えられている。
新興国企業と米国企業との利回り格差が拡大
過去10年ほど、投資適格級の新興国企業と同じく投資適格級の米国企業の社債の利回り差は着実に縮小してきた。これは両者の信用力が似たような水準に近づいてきたことを反映した動きだが、このタイミングで新型コロナウイルスのパンデミックが発生した。
このパンデミックにより投資家が現金化のニーズを急速に高めた結果、市場は大きく混乱した。無差別な売りの対象には、低格付けの債券だけではなく投資適格級の新興国債券も含まれていたため、新興国債券の米国国債との利回り格差は価格の下落に伴い急拡大した。
一時的な市場の混乱ののち、投資適格級の新興国債券セクターは、4月、5月と反発を続けた。しかし過去の水準そして米国の投資適格企業のスプレッドと比較しても、同セクターのスプレッドは依然として魅力的な水準にある(図表1)。
なぜ、これらのセクター間のギャップが急激に拡大しているのか?
このような新興国企業と米国企業の利回り格差の拡大をもたらしているのは、信用力動向の違いではなく、短期的なテクニカル要因が大きく反映されているからと考えている。実際、市場が混乱した初期段階では、投資適格級の新興国企業と米国企業の債券のパフォーマンスに違いはなかった。
しかし、米連邦準備制度理事会(FRB)が米国企業の社債の買い入れ枠の拡大を発表したことで(以前の記事『FRBの流動性供給はグローバル社債市場に落ち着きをもたらそう』ご参照)、米国企業のクレジット投資を巡るセンチメントの回復が加速し、新興国債券は全般に後れを取った。投資適格債券の中では、新興国のソブリン債券は相対的に回復しているが、社債はまだ回復の余地を顕著に残している。
投資適格級の新興国債券発行体のファンダメンタルズは改善している
実際、過去 20 年間にわたり、米国の投資適格企業の信用格付けが低下する一方で、投資適格級の新興国債券の信用格付けは上昇した。その結果、投資適格ユニバースにあっては、新興国債券と米国の社債の平均格付けはほぼ収れんしている(図表2)。
このような財務の特徴を反映して、米国の投資適格社債ユニバースは、投資適格級をぎりぎりで保つ銘柄の割合が高くなっており、投資適格外に格下げされ「フォーリン・エンジェル」に陥るリスクが大幅に高まっている(以前の記事『社債投資家は格下げの嵐をどう乗り切るべきか』ご参照)。
対照的に、新興国の投資適格企業のネット・レバレッジは全体的に低く、フォーリン・エンジェルとなるリスクは低い。ABのボトムアップ分析からも、このセクターの堅調な信用力が裏付けとなり、コロナショック後の新興国債券のフォーリン・エンジェル増加の懸念は大きく上方修正する必要はないと考えている。
新興国の企業は、米国の企業よりも負債に対する手元資金の割合が高い(図表4)。これは、市場での資金調達機会が限られている中、流動性の確保が重要な時期を乗り切る上で重要な強みだ。手元資金を多く有する企業は、市場で債券発行に踏み切るタイミングを見計らう余裕がある。
2020年3月初旬の原油価格の暴落は、新興国のエネルギー輸出国の債券価格にショックを与えたが、信用力には大きな影響を与えていない。過去数年の間に、これらの国はソブリン・ウェルス・ファンドや中央銀行の準備金として対外国の資金収支を支える貯金を積み上げており、その規模は現在では政府債務総額の何倍にも及ぶからだ。このため、原油価格が記録的な低水準に落ち込んでも、産油国の信用格付けは安定している。
しかし、新興国債券と米国国債の利回り格差は通常よりも広がったままであり、堅調なファンダメンタルズと割安なバリュエーションが作り出すかい離は、投資のチャンスを示唆している。投資適格債券の投資家にとっては、米国の投資適格企業から新興国の投資適格債券にリスクを一部割り当てるタイミングではないだろうか。また、新興国債券に注目している投資家にとっては、リスクを積み増す魅力的なエントリー・ポイントになるかもしれない。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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