新型コロナウイルスの感染拡大に対応すべく、各国中央銀行は大規模な金融政策を講じ、世界の債券価格は急上昇(利回りは低下)した。国債のイールドカーブは低位に抑えられ、マイナス金利も珍しいものではなくなった。金融市場と財政支援策を支えるため、政策金利は継続的に引き下げられ、量的緩和政策が導入または再始動され、多くの略語を用いた前例のない施策が数多く展開された。
しかし、中国の国債利回りはこの流れに逆行している。10年国債の利回りは2020年4月の安値である2.4%から3%まで上昇し、コロナ危機以前の水準に達している。これは、他国の債券利回りの動きを先取りしているのだろうか。それとも、世界の債券の「日本化」が中国国債を再び低い利回りに引き込むことになるのだろうか?
中国国債の今後を見極めるには、同国国債がどのようにしてここまで上昇してきたのか、詳しく見ていく必要がある。債券利回りが上昇する要因として、次の3つが考えられる。
1) 経済の安定化により株式市場へ資金が向かった。
中国は新型コロナウイルスを巡る経済封鎖からの回復が他の地域より早く、今のところ各国が苦しんでいる感染拡大の大規模な第2波は回避している。このことが中国の経済活動のより早い回復を可能にしている(図表1)。
ウイルスの感染がほぼ収束したことや、折からの報道で当局が株式市場の強化に意欲的であることが示唆されたことが強い動機となり、投資に積極的な中国の個人投資家が債券から株式への資金の流れを加速させた。
2) 市場は債券の供給圧力を織り込み済み。
中国政府は景気の回復に注力している。その規模は世界金融危機直後の景気刺激策には及ばないが、市場がその返済について懸念を抱くに足りる規模である。中国の財政赤字が 4-5%増加したことで、それを賄うために国債、政策銀行債、地方債の発行が比例して増加しているためだ。
中国債券市場は、この供給量の増加をただ傍観していたわけではない。先見の明のある投資家は、先んじて保有量を減らした。巨額の債券発行は少なくとも2020年10月までは続くと予想されるが、債券市場はすでに追加的な供給を織り込んでいると見ている。
3) 中央銀行は追加緩和は行わず、安定的・中立的なスタンス。
中国人民銀行(PBOC)は、追加的緩和政策には注力せず、米連邦準備制度理事会(FRB)や他の主要な中央銀行が金融政策で講じてきた「何でもやる」という姿勢はとっていない。
確かに、貸出金利は引き下げられ、1年物の中期貸出金利は2019年11月に3.30%から現在の2.95%に引き下げられた。しかし、FRBの1.5%の引き下げに比べれば、それは「慎重な」ペースのように見える。銀行システムにおける短期流動性の供給という点では、PBOCの公開市場操作はかなりバランスが取れており、流動性は若干引き締まったとさえ言える。
今後の中国債券市場の見通し
中国の国債利回りは主にこれら3つの要因を反映しているため、今後の債券市場の動きは、コロナ危機を経た経済回復の後、2021年にかけた中国経済の動向次第となるだろう。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では、中国経済は2020年以降、追加緩和が必要になると考える。政策当局は今のところ「切り札を隠して」いるが、年末に向けて準備率(RRR)のさらなる引き下げとベンチマーク貸出金利の小幅な引き下げが行われると予想する。
生産者物価で測ったインフレ率は依然としてマイナスであり、失業率の高止まりと輸出量や小売売上高の低迷が続くと見ている。このことは、中国が強い国内消費や堅調な世界経済の回復をあてにすることができないということを示唆している。かかる状況下、中国の国債利回りは2020年4-6月期に上昇した利回りをある程度相殺し、そして追加の金融緩和策と流動性供給を織り込み始める可能性があると見ている。このシナリオが実現した場合、中国国債利回りは低下に転じ、世界の国債利回りにやや近づくことになるだろう。
人民元: 安定的に推移するが上昇余地を残す
PBOCは他の中央銀行の大規模な金融緩和策とは異なり、中小企業への貸出促進などターゲットを絞った政策を行っているため、他国との金利差が大幅に拡大し、人民元を支える要因となっている。人民元はこの魅力的な水準の金利差をまだ価格に織り込んでいないが、この状況は中国の金融市場への資金流入を促すことになるだろう。
このことは、人民元のさらなる上昇余地を示している。実際、人民元はこのところ貿易相手国通貨に対し弱含みが見られ、足元では世界の競合国通貨に対して取引レンジの中位か下位に位置している。ABの長期的な評価指標も人民元が過小評価されていることを示している(図表2)。つまり、人民元は、高い金利水準やコロナ危機後の回復力が比較的強いという国内要因に加えて、グローバルな視点からも上昇余地があると考える。
中国国債の独自性は投資機会
歴史的に、中国国債への投資はグローバル債券運用におけるボラティリティを低減し、リスク調整後のリターンを向上させてきた。中国の債券市場は、主に国内の独自の要因に影響される。世界債券のトレンドからのかい離はその一例であり、投資機会でもある。さらに為替ヘッジコストを考慮してもなお投資妙味があると考える(図表3)。
ここ数カ月で外国人投資家による投資資金の流入が加速したとは言え、中国の債券市場は依然として外国人投資家の保有比率は低いとABでは見ている。外国人保有比率は約9%であるが、国内市場全体を考慮すると5%以下である。国債や政策銀行債は既にブルームバーグ・バークレイズ・グローバル総合債券指数の一部となっており、2021年以降も他の一般的なグローバル債券指数に加えられる可能性があるため、投資資金の流入は一段と勢い付くだろう。
このような状況下、特に世界債券市場と比較した場合の足元のバリュエーションの魅力度の高さ、そして国内経済に対する慎重なファンダメンタルズ見通しを考慮すると、中国国債は長期的な投資機会を提供していると考える。ABでは、2020年以降中国の国債利回りは低下し、人民元は少なくとも安定的に推移しつつも上昇余地を残す可能性が高いと見ている。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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