次期米国大統領候補2人の人物像が全く違うのと同様に、選挙に向けた政策スタンスの違いも際立っている。有権者がどちらに投票するか考えをめぐらせる中、次の大統領が取り得る政策の範囲や、それがクレジット市場に与える影響は、最近では記憶にないほど幅広くなっているようだ。
 
2020年11月の選挙結果が生み出す政策課題は、今後何年にもわたる市場環境を形作る要因となる見通しで、債券投資家は大統領選挙や連邦議会選挙の結果を注視している(以前の記事『2020 US Election: What the Polls Could Mean for Policy and Markets』(英語)ご参照)。投票日が迫る中、本稿では、クレジット市場にとって、2人の次期大統領候補や彼らの政策がどんな意味を持ち得るかについて考察したい。
 

バイデン氏勝利の場合:
気候変動・税・賃金が政策課題に

バイデン政権の下では、ビジネスを取り巻く環境が激変するとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は考えている。トランプ氏の大統領令を撤回し、新たな政策を打ち出すことは、イベントというよりもプロセスのようなものとなろう。バイデン氏が大統領令を通じていち早く変更するとみられる政策の1つは気候変動問題への対応で、それは市場に最も大きな影響を与えることになる。
 
気候変動問題に対処する強力な政策は地球にとっては望ましいが、エネルギーや素材関連企業は痛手を被るだろう。規制強化、炭素税導入の可能性、連邦政府が保有する土地のリース料引き上げは生産に影響を与えるほかコスト増につながり、エネルギーの探査や生産に最も大きな影響を与える恐れがある。連邦政府が保有する土地でのフラッキング(水圧破砕法)が禁じられる可能性もあるが、その確率は低そうだ。
 
エネルギー探査や生産活動が落ち込めば油田サービス企業の売上高が減少するが、油田サービス企業にとって唯一の直接的な打撃となりそうなのは増税である。石油精製会社は再生可能バイオ燃料のコスト上昇や、いずれは自動車の燃費基準強化への対応を迫られることになる。エネルギーのパイプライン運営会社も、環境汚染の少ないエネルギー源へのシフトや訴訟に直面する可能性がある。
 
バイデン政権下で企業や個人への課税が強化されれば、テクノロジー企業、製薬会社、メディア企業が最も大きな影響を被りそうだ。テクノロジー企業はさらに、プライバシーを巡る規制強化に直面する可能性が最も高く、収益がページ当たりのウェブサイト訪問者数に左右される企業にとって逆風となる。バイデン氏が全米の最低賃金を倍以上に引き上げるよう求めていることは、利益率の低い外食産業や小売企業に打撃を与える見込みだが、小売セクターは貿易を巡る不透明感の払しょくから恩恵を受けるほか、外食産業にとっては財政支出の拡大や移民政策の緩和を受けた労働力の増加が追い風となりそうだ。
 
バイデン政権下で米国が国際貿易機関(WTO)などの国際機関に再び積極的に関与するとみられることや、貿易を巡る不透明感が晴れそうなことは、大半のセクターに恩恵をもたらすと思われる。それはとりわけ、世界的に製品を販売している自動車、化学、たばこ、テクノロジー企業に大きな追い風となる可能性がある。
 

トランプ氏勝利の場合:政策はおおむね現状維持

2期目のトランプ政権が誕生すれば現行の政策が継続されるだろうが、一部の貿易を巡る緊張や移民政策の影響による労働力の減少が、ますます企業業績の足かせとなる構図が続く可能性がある。
 
トランプ政権による減税は企業の利益率を押し上げたほか、消費者の可処分所得の増加が外食や小売りなどのセクターに恩恵をもたらした。だが、最大の恩恵を受けたセクターはどこだろうか? それは、これまでどのセクターよりも高い実効税率を課されてきた通信セクターである。
 
トランプ氏が気候変動問題に関する多くの従来の政策を後戻りさせた結果、数多くのセクターで利益が増加した。最も恩恵を受けたセクターを想像するのはたやすい。それはエネルギーセクターと素材セクターで、規制緩和も両セクターにとって追い風となった。しかし、気候変動対策の緩和は燃費基準の引き下げを通じて自動車セクターにも恩恵を与えたほか、たばこ、外食、小売りセクターにもプラス要因となった。
 
その一方で、攻撃的なトランプ氏の貿易政策は貿易相手国との関係をさらに悪化させる可能性がある。貿易を巡る緊張はサプライチェーンに影響を与えており、関税によって投入価格が押し上げられ、海外での売上高が減少した。貿易の悪化は化学など素材セクターのほか、テクノロジー、一般消費財、小売り、外食セクターにも悪影響を及ぼすとみられる。トランプ政権による厳格な移民政策は労働力の縮小や労働コストの増大を招き、建設や外食セクターの利益率を圧迫している。
 

両候補のスタンスが似ている分野:
財政支出拡大とインフラストラクチャー

両候補の政策スタンスが全ての分野で大きくかけ離れているわけではない。両者ともコロナ禍からの回復を支えるために財政支出の拡大を掲げている。両者のアプローチはほぼ確実に異なっているが、景気回復に伴い消費支出が増えているため、建設セクターと消費関連セクターが潤う見通しだ。トランプ政権下ではテクノロジー、運輸、製造業セクターが恩恵を受ける見込みだが、バイデン政権になれば、それらのセクターは逆風にさらされそうだ。
 
インフラ・プロジェクトも双方の見解がおおむね一致している分野だが、各候補の焦点の違いによって恩恵を受けるとみられるセクターが異なる可能性がある。ABでは、トランプ政権なら素材、エネルギー探査及び生産、不動産投資信託(REIT)にとって追い風になるのに対し、バイデン政権になれば素材セクターが支えられることは同じだが、建材や建設、運輸、製造業セクターが大きな恩恵を受けると予想している。
 
11月の選挙結果にかかわらず打撃を被るとみられる分野の1つは医薬品セクターだ。処方薬の価格を規制しようとする超党派の法案はそれほど大きな災難ではないが、少なくとも将来の利益を圧迫する要因にはなりそうだ。
 

大局観で見る:政策マップ

アクティブ運用を行う債券投資家にとって、個々の政策、そして具体的な法案がそれぞれのセクターや発行体に与え得る影響について深く理解することは不可欠だ。しかし、大統領の政策スタンスが全体としてクレジット市場に与える意味合いについて大局的に理解することも役に立つ(図表)。
 
政策マップ:両候補の政策は企業業績にどんな影響を与え得るか.png
 
例えば、上述したように、トランプ政権の税政策がクレジット市場にとって追い風となったのは意外なことではない。そのため、トランプ政権の税政策は企業に大きなプラスの影響を与えるものとして位置している。バイデン政権になれば、これらの減税の一部は巻き戻される可能性があり、そうなれば企業の利益率に与えるプラス効果が小さくなる。その一方で、バイデン政権下では貿易政策がクレジット市場にとってより好ましいものとなりそうだ。
 
そして意外なことに、医療保険制度改革法(ACA)がヘルスケアREITに与え得る影響については、どちらの候補の場合もニュートラルとなっている。
 
クレジット市場全体では、トランプ氏が当選すれば現行の政策がおおむね継続されるとみられるため、バイデン政権よりもクレジット市場に好ましい影響をもたらすと予想される。
 
11月の選挙が迫るのに伴い、市場ではますます選挙結果がもたらす潜在的な影響が関心を集める見通しだ。ABの見方では、投資家は選挙が終わり、結果が確定するまで、さらなるボラティリティの高まりに備える必要がある。クレジット市場の投資家はポートフォリオを綿密に点検し、今後のリスクや投資機会を生み出すとみられる新たな政策フレームワークに応じてポジションを迅速に順応させる準備を整えておかなくてはならない。
 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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