低利回りと高ボラティリティは、この先も続くだろう
多くの投資家が債券投資の収益力に懸念を抱いている。各国中央銀行は、パンデミック下の景気回復を促すために、金利を記録的な低水準まで引き下げた。時にマイナス圏に沈む低金利の環境は長期的に続く可能性があり、実際、米連邦準備制度理事会(FRB)は先の9月中旬に、少なくとも2023年までは金利をゼロに近づけて固定化する方針を示している(パウエルFRB議長の記者会見記録(9月16日)(英語))。
しかしながら、金融市場のボラティリティは今後数カ月の間に上昇する可能性が高い情勢となっている。不安要素は枚挙にいとまがない。新型コロナウイルスの感染第2波の可能性があり、11月の米国大統領選挙は結果が判明するまで時間がかかる可能性をはらみ(以前の記事『2020 US Election: What the Polls Could Mean for Policy and Markets』(英語)ご参照)、地政学的緊張は高まり貿易戦争は泥沼化し、そして英国の欧州連合離脱(ブレグジット)交渉の見通しはいよいよ厳しさを増している(以前の記事『ブレグジット-最悪シナリオへのカウントダウン』ご参照)。
これらの条件の下では、債券ポートフォリオは、防御と攻撃の両方の機能を果たさなければならない。不安定な局面においてはポートフォリオのダウンサイド・リスクを抑制するとともに、低利回りの環境でもインカムとリターンを生み出す必要がある。幸いなことに、債券市場は今でもこの両方の目的を満たすことができる。
まずは、ダウンサイド・リスクを抑えるための国債の役割から見ていこう。
資産価値の保全には米国国債とドイツ国債が依然として有効である
一部には、低利回りやマイナス利回りにより債券のリターンが低くなるため、国債が市場の混乱時にバッファーとして機能することが阻害されているとの指摘がある。
利回りが低いからトータル・リターンが過去に比べて鈍化するという点には一定の説得力がある。実際、米国国債の利回りが30年間に及ぶ低下トレンドの下限近辺で推移した過去10年間については、トータル・リターンもさえない結果だった。
しかし、リターン創出が心もとないから資産保全機能も低下したという結論は、2つの理由から的外れであると考える。
まず第一に、日本のような例では、長期間にわたり超低利回りが続くなか、低い利回りが必ずしも低いトータル・リターンに結びつくわけではないことが示唆されている(以前の記事『The Myth of Low Yields and Low Returns』(英語、動画)ご参照)。過去12年間のうち11年間において、日本の10年物国債の利回りは1%未満であった。対照的に、同期間のトータル・リターンが利回り水準に一致することもほとんど無かった。年限による金利差は健在でありロールダウンの効果が得られたこともあって、トータル・リターンは平均で利回りの倍以上の水準となったのだ。
第二に、先に世界的なパンデミックが発生し、リスク資産が大きく売られた局面、及び9月の株式市場での調整局面では、国債は株式市場のボラティリティに対する数少ないダウンサイド・リスク抑制の機能を発揮した。
図表1では、株式市場が下落した日を抽出すると、米国国債とS&P 500指数の相関係数が-0.4を下回っていたことが示されている。また、欧州では、3月と9月に株式市場が下落した際にドイツ国債の10年物利回りが大幅にマイナスに転じるまで買われ、市場が混乱した期間はそもそもマイナスであった相関係数がさらに低下していたことがわかる。
言い換えれば、ダウンサイド・リスクの抑制が最も必要とされる時にこそ、国債は資産保全機能をいっそう強く発揮したということである。このことは、金融市場のボラティリティが高まっている時期には、値動きの緩衝材として国債へ資産を振り向けておくことが重要であることを示唆している。
さまざまなインカム収入の源に着目する
一方で、世界的に株式の配当が急落する事態に直面しながらも、投資家のインカム収入とトータル・リターンに対するニーズはこれまでと変わらず高い(フィナンシャル・タイムズ「Global dividends suffer worst quarterly fall since 2009」(英語))。債券は負債・資本の構造において株式よりも優先順位が高く設定されている。つまり、企業にとって、債券のクーポンは支払いをしなければ債務不履行に陥る非常に重い義務であること強調しておきたい。このため、景気が軟調な環境においては、債券こそが確実にインカム収入を提供する資産クラスだと考えられる。
具体的には、インカム収入と潜在的なトータル・リターンを高めるために、利回りの高い債券セクターにも分散して投資することを検討すべきだ。このアプローチでは、異なるセクター間の分散効果を利用しながら、相対価値が割安なセクターから収益を獲得する機会を活用することもできる。
利回りの高い債券セクターには、先に市場が調整したことで、魅力的な投資機会が幾つも存在する(図表2)。例を挙げると、BBB格付けの中でも下位に位置する債券、フォーリン・エンジェル債券(投資適格から投資適格未満に格付けを引き下げられた債券)(以前の記事『Why Fallen Angels Can Be a Good Catch』(英語)ご参照)、ハイイールド債券、欧州銀行の劣後債(AT1債)(以前の記事『Can AT1s Survive Coronavirus?』(英語)ご参照)、エマージング市場の債券、信用リスク移転(CRT)証券(以前の記事『CRT証券 :いま進むべき道』ご参照)や商業用不動産担保証券などの証券化商品などがそれにあたる。
資産価値保全とインカム収入の両方を達成するバランスとは
さらに運用資産における債券部分の運用効率を最大限に高めたいと考えている投資家は、単一のポートフォリオの中で、国債と利回りが高いがクレジット・リスクのある債券を組み合わせて保有することを検討すべきだとABでは考える。このようなバランスを取ったアプローチにより、伝統的なベンチマーク重視のポートフォリオとは対照的に、資産価値の保全とインカム収入という望ましい目的を視野に入れることになる。
ここで、国債と利回りの高い債券セクターは、リスク・オフの局面においてお互いに逆の値動きをする傾向があることが重要になってくる。国債などの資産価値保全を求める資産の保有により、ハイイールド債券などのリターンを求める資産の価格が下落しているときにも、ポートフォリオの値動きの幅を抑制する傾向を得られる。
さらに、債券のアロケーションをアクティブに変更していくスタイルをとることで、市場環境の変化に応じて、金利とクレジットのエクスポージャーのリスクを加減することが可能となる。例えば、今日のような環境では、インカム収入と潜在的なリターンを高めるためにクレジットのリスクを多めにとることは理にかなっており、同時に金利の方では、中期年限をアンダーウェイトしつつ長期年限の米国国債を組み入れることが効果的だ。長期年限の国債は、リスク資産のボラティリティが高い時期には、緩衝材としてより高い効果を提供する傾向がある。
これに加え、アクティブな投資スキームならば、市場のゆがみを捉えるアプローチも可能となる。例えば、一部の債券セクターは、パンデミック当初のショックから、他のセクターよりも先に回復している。アクティブ運用ならば、市場の回復局面で、出遅れているセクターにローテーションすることができるだろう。ボラティリティが急上昇するような局面があれば、それに応じて債券を割安に仕入れることもできる。2020年で言えば11月に行われる米国の大統領選挙の結果次第では、エネルギー、ハイテク、基礎素材などのセクターが魅力的になる可能性があるかもしれない(以前の記事『米国大統領選挙と社債市場への影響』ご参照)。今日の不確実な環境下では、ファンダメンタルズの裏付けがしっかりした債券を保有することが重要で、全てを満遍なくではなく、何らかのアクティブな選択をすることも重要である。
豊かな投資成果を得るために
何十年もの間、良い年と悪い年をならしていけば、債券市場は、ダウンサイド・リスクを軽減し、魅力的なインカム収入と、時に良好なトータル・リターンを達成するという、相反するかのような目的を満たしてきた。
今日の状況は過去にも増して厳しいかもしれない。しかし、利回りが低く、ボラティリティが高まっている局面であっても、投資家は考え抜いて構築されたアクティブな債券運用の恩恵を受けることができるとABは信じている。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。オリジナルの英語版はこちら。
本文中の見解はリサーチ、投資助言、売買推奨ではなく、必ずしもアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)ポートフォリオ運用チームの見解とは限りません。本文中で言及した資産クラスに関する過去の実績や分析は将来の成果等を示唆・保証するものではありません。
当資料は、2020年10月5日現在の情報を基にアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーが作成したものをアライアンス・バーンスタイン株式会社が翻訳した資料であり、いかなる場合も当資料に記載されている情報は、投資助言としてみなされません。当資料は信用できると判断した情報をもとに作成しておりますが、その正確性、完全性を保証するものではありません。当資料に掲載されている予測、見通し、見解のいずれも実現される保証はありません。また当資料の記載内容、データ等は作成時点のものであり、今後予告なしに変更することがあります。当資料で使用している指数等に係る著作権等の知的財産権、その他一切の権利は、当該指数等の開発元または公表元に帰属します。当資料中の格付けは特に記載のない限りABの定義に基づきます。当資料中の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。アライアンス・バーンスタイン及びABはアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーとその傘下の関連会社を含みます。アライアンス・バーンスタイン株式会社は、ABの日本拠点です。
当資料についてのご意見、コメント、お問い合せ等はjpmarcom@alliancebernstein.comまでお寄せください。
「債券」カテゴリーの最新記事
「債券」カテゴリーでよく読まれている記事
アライアンス・バーンスタインの運用サービス
アライアンス・バーンスタイン株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第303号
https://www.alliancebernstein.co.jp/
- 加入協会
-
一般社団法人投資信託協会
一般社団法人日本投資顧問業協会
日本証券業協会
一般社団法人第二種金融商品取引業協会
当資料についての重要情報
当資料は、投資判断のご参考となる情報提供を目的としており勧誘を目的としたものではありません。特定の投資信託の取得をご希望の場合には、販売会社において投資信託説明書(交付目論見書)をお渡ししますので、必ず詳細をご確認のうえ、投資に関する最終決定はご自身で判断なさるようお願いします。以下の内容は、投資信託をお申込みされる際に、投資家の皆様に、ご確認いただきたい事項としてお知らせするものです。
投資信託のリスクについて
アライアンス・バーンスタイン株式会社の設定・運用する投資信託は、株式・債券等の値動きのある金融商品等に投資します(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)ので、基準価額は変動し、投資元本を割り込むことがあります。したがって、元金が保証されているものではありません。投資信託の運用による損益は、全て投資者の皆様に帰属します。投資信託は預貯金と異なります。リスクの要因については、各投資信託が投資する金融商品等により異なりますので、お申込みにあたっては、各投資信託の投資信託説明書(交付目論見書)、契約締結前交付書面等をご覧ください。
お客様にご負担いただく費用
投資信託のご購入時や運用期間中には以下の費用がかかります
- 申込時に直接ご負担いただく費用…申込手数料 上限3.3%(税抜3.0%)です。
- 換金時に直接ご負担いただく費用…信託財産留保金 上限0.5%です。
- 保有期間に間接的にご負担いただく費用…信託報酬 上限2.068%(税抜1.880%)です。
その他費用:上記以外に保有期間に応じてご負担いただく費用があります。投資信託説明書(交付目論見書)、契約締結前交付書面等でご確認ください。
上記に記載しているリスクや費用項目につきましては、一般的な投資信託を想定しております。費用の料率につきましては、アライアンス・バーンスタイン株式会社が運用する全ての投資信託のうち、徴収するそれぞれの費用における最高の料率を記載しております。
ご注意
アライアンス・バーンスタイン株式会社の運用戦略や商品は、値動きのある金融商品等を投資対象として運用を行いますので、運用ポートフォリオの運用実績は、組入れられた金融商品等の値動きの変化による影響を受けます。また、金融商品取引業者等と取引を行うため、その業務または財産の状況の変化による影響も受けます。デリバティブ取引を行う場合は、これらの影響により保証金を超過する損失が発生する可能性があります。資産の価値の減少を含むリスクはお客様に帰属します。したがって、元金および利回りのいずれも保証されているものではありません。運用戦略や商品によって投資対象資産の種類や投資制限、取引市場、投資対象国等が異なることから、リスクの内容や性質が異なります。また、ご投資に伴う運用報酬や保有期間中に間接的にご負担いただく費用、その他費用等及びその合計額も異なりますので、その金額をあらかじめ表示することができません。上記の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。