新興国債券市場は、パンデミックによる暴落への懸念が沈静化したことで、2020年3月の安値から急反発してきた。しかし、年末にかけては米国の選挙後の政治姿勢をめぐる不確実性があることを踏まえると、今後はボラティリティが上昇する可能性がある(以前の記事『債券投資において最大限の投資成果を得る秘訣とは』ご参照)。だからこそ、今こそ市場へのエントリーを検討するに値するとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は考えている。
ここでは、足元の新興国債券市場についての重要な4つの指針を紹介したい。
1. 新興国の新型コロナウイルスに対する「耐性」
新型コロナウイルスが新興国にもたらしたダメージの軌跡は、先進国市場のそれと似ている。ヘッドラインの注目を集めやすいブラジルやインドのような国でさえ、これまでのところ新型コロナウイルスの新規感染状況はなんとか安定を保ち、感染者が爆発的に増加するような事態の発生を防ぐことができてきた。
一般的に、新興国の政府は、歳入を維持するためにロックダウンは極力回避し、信用力の低下を防ぐために財政刺激策の拡大も抑制してきた。その結果、パンデミックに端を発したシステミック・デフォルトの懸念はき憂に終わっている。アルゼンチン、エクアドル、レバノンなどの足元のデフォルトは、2020年のかなり前から予想されていたものばかりだ。
ABは新型コロナウイルスの感染拡大が新興国経済に及ぼす影響はこれまでのように限定的であり続けると予想している。また、潜在的なワクチン開発、治療法の改善、さらには感染の検査キャパシティの向上などといった医療的進展があれば、世界の経済成長は押し上げられ、新興国資産はその恩恵を受ける可能性がある。
2. 米国大統領選挙後の世界
米国と中国の間の緊張の高まり(以前の記事『Will US Sanctions Disrupt China’s Credit Market?』(英語)ご参照)からインフラ開発やエネルギー政策に至るまで、今回の米国大統領選挙の結果はリスク資産にとって通常以上に重要になる可能性がある(以前の記事『2020 US Election: What the Polls Could Mean for Policy and Markets』(英語)ご参照)。そして、新興国債券市場もその類に漏れない。
例えば民主党への政権交替を想定する場合、従来型の外交に戻ったり、中国との貿易交渉がより予測しやすいもになることは新興国経済にとって追い風となる。ヘッドラインリスクが低下することも、新興国債券投資の環境が整いやすくなると考えられる。また、民主党が大統領選挙とともに議会もおさえた場合には、財政刺激策や米国インフラの支出の増加が見込まれ、これらに必要とされる原材料を供給する新興国や企業にとっても追い風となる。
また、民主党政権は、世界経済における国際通貨基金の役割についても態度を修正するかもしれない。その結果、特別引出権が追加されれば、新興国にとっての資金源の増加につながる可能性がある。
最後に、米国のエネルギー政策は、産油国、消費国を問わず、新興国にとって非常に重要だ。民主党政権がグリーンエネルギーに注力するなら、シェールガス関連事業に向かい風となり、短期的にはエネルギー価格が上昇する可能性が出てくる。ただし、中期的にはどちらが勝ったとしても原油価格のすう勢が大きく変わるということは無いだろう。民主党政権の例では、米国とイランの関係が改善する可能性があり、長い目で見るとイラン産原油が国際市場に出回ることになるため原油価格を下押す部分もあるだろう。また、電気自動車への需要シフトが加速することも考慮すべきかもしれない。
一方、共和党が勝利した場合、現在の政策が維持される可能性が高く、世界経済が回復するか、あるいは新型コロナウイルスのワクチンが成功した場合にのみ、原油価格が上昇するというシナリオが描ける。
3. 米ドル安に転じれば慈雨となる
米ドルのバリュエーションは随分上昇した。経常収支の赤字、拡大傾向にある財政収支の赤字、低くなった金利水準といった要素は、逆に米ドル安をもたらす可能性がある要因だ。
一般的に米ドル安になると、より高い成長率と利回りを求めて投資資金が新興国資産に流入しやすい。また、米ドル安は新興国の米ドル建て債務の債務返済の資金繰りをやわらげることを通じて新興国に利益をもたらす。同時に、現地通貨建て債券への投資が魅力的となる環境が生ずる可能性がある。
4. 利回り面の魅力が保たれている
低金利環境下においても新興国債券は高い利回りを保っており、ハイイールド債、特にソブリン債は、非常に魅力的とABでは考えている。これは、米国のハイイールド社債と比較した時に利回りが歴史的に高い水準にあるからだ(左図)。
しかし、ハイイールドのソブリン債だけが今日の新興国債券で狙うべき投資対象だというわけではない。投資適格企業についても、クレジット・ファンダメンタルズが大きく改善しているにもかかわらず、米国の投資適格企業よりも魅力的なスプレッド水準にある(右図) (以前の記事『魅力的な利回りを提供するハイグレード新興国債券への投資機会』ご参照)。このことは、新興国債券の背中を押す追い風がまだ市場に十分に認識されていないことを示唆している。
もちろん、新興国は似たような国の集りではないため、厳選することが重要である。例えば、トルコは財政収支危機のリスクがあり、スリランカは債務の持続可能性に問題がある。だからこそ、ボトムアップ分析とアクティブな運用スタイルが新興国債券の投資には有効なアプローチだとABでは考えている。
ここまで述べた四つの指針を頭に置いて新興国債券投資に臨むことで、相対的に高い利回り、魅力的な機会、そして環境面の追い風といった恩恵を享受し、不確実性の高い環境をうまく乗り切ることができるだろう。
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