足元における中国の国有企業(以下、「SOE」)による債務不履行(デフォルト)は、中国のオンショア市場の社債市場を混乱に陥れた。規制当局は迅速に流動性を提供し、市場の動揺を落ち着かせるよう行動したが、投資家が安心できる状況なのだろうか。
債券発行企業の不始末に対して当局は厳しい姿勢を強めている
歴史的に、中国の地方政府はデフォルトを防ぐために介入を繰り返してきた。弱小発行体を救済して解雇を回避し、労働市場の安定性を確保するためだ。これが社債に暗黙の保証を与える効果を生み出し、SOEの負債総額は今日では国内総生産(GDP)の130%近くにまで膨れ上がった(図表)。
しかし、中国が不良債権を処理する政策にシフトしたことで、暗黙の保証があるとの認識はここ数年で低下していた。この不良債権処理を目指す動きは、中国が初めてオンショア市場の社債のデフォルトを許した2014年の上海チャオリ・ソーラー・エナジーのデフォルトから始まった。さらに2015年にはバオディン・ティアンウェイ・グループが最初のSOEのデフォルトとなった。それからの数年間は中国の不良債権処理政策は徐々に勢いを増していった。しかしパンデミックにより、政策立案者は景気回復を優先して不良債権を一時的に許容する姿勢に転じることとなった。
足元の中国の回復は堅調で広範囲に及んでいるため、政策当局は再び秩序だったデフォルトを認めようとしているが、今回はねじれが生じている。河南省の地元企業であるヨンチェン・コール&エレクトリシティが2020年11月の短期債務の債務履行を行わなかったケースにおいては、SOEが意図的に債務逃れをしているのではないかという懸念が市場で広まった(フィナンシャル・タイムズの記事『Fall of China’s ‘most profitable’ coal miner is a cautionary tale』(英語)ご参照)。言い換えれば、同社のデフォルトは、支払い能力の問題ではなく、むしろ支払う気がなかったのでは、という疑念だ。
その後、劉鶴氏が議長を務める金融安定発展委員会(FSDC)は、不正な企業行動に対して容赦しない姿勢であることを公に宣言した。ヨンチェン・コール&エレクトリシティは釘を刺された格好となり、結局、債権者との間で元本の半分を前払いしたうえで残りの元本と利息を9カ月後に返済することで合意に達したと発表した。
規制当局の迅速な市場介入は、金融市場そのものへのリスクを放置しない姿勢を示している。しかし、地方のSOEの債務を暗黙のうちに保証する時代は終わり、政府による救済への期待は今後も低下していくことは明らかである。
中国はクレジット市場の健全化を目指している
中国の上層部の見解では、暗黙の保証を破ることは、中国の信用市場の長期的で健全な発展にとって極めて重要である。2015年のSOE改革計画では、SOEは自らの利益と損失に責任を持ち、「自らのリスクを負担しなければならない」としている。他の政策文書では、地方政府の資金調達事業体(LGFV)と地方政府との間に「厳格な分離」を求めている。また、中国人民銀行の易綱総裁は足元で「暗黙の保証を徐々に解除し、一部の金融資産の名目上のリスク負担者と実際のリスク負担者のミスマッチを是正すべきである」と述べている。
中国で市場主導型の資本配分への移行が進んでいくにつれて、発行体は信用力の違いに伴う差別化が強まり、リスクの高い投資対象から安全な投資対象まで、より多くの選択肢を投資家に提供するようになるだろう。効率的な価格設定は、外国資本の誘致を促進するための構造的な柱としても機能する。
中国債券市場への国外からの資金流入は、潜在的には相当な量になる可能性がある。中国の債券市場は15兆米ドルと世界第3位の規模だが、外国人投資家の市場シェアはまだ3%程度にとどまっており、その保有は中国の政府債や政策銀行債に集中している。
別の観点からも、海外投資資金の流入の可能性が意識されている。中国の現地通貨建て債券は、ブルームバーグ・バークレイズ・グローバル総合債券指数(この指数は中国の国債のみならず政策銀行債も含む)やJPモルガン・ ガバメント・ボンド・インデックス–エマージング・マーケッツなど、主要な世界の債券指数に組み込まれるようになった。どちらもパッシブ運用のベンチマークとして人気がある。
中国に着目する理由は、こうした政策面の話だけではない。世界の金利は今後も低水準にとどまるか、あるいはマイナスになる可能性が高い。対照的に、中国の実質金利はプラス水準を維持しており、中国の債務は先進国の債務に比べて大幅に高い利回り水準で取引されている。このような相対的に高い利回りは、イールド・ハンティングを続ける外国人投資家を惹きつけるとみている(以前の記事『世界的な低金利の流れに逆行する中国国債の利回り上昇の行方』ご参照)。
外国人投資家がオンショア市場での投資対象をSOEやより広範なクレジットに拡大していくためには、信用力の違いが正しくプライシングされることと、情報の透明性がさらに向上することが必要であるとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では考えている。また、セカンダリー市場の流動性も現状は十分とは言い難い。
2021年の中国クレジット市場、システミック・リスクの懸念は不要
2021年には、LGFVを含む地方のSOEによる債券デフォルトが増加するとみている。デフォルトの増加は、債券利回りのさらなる適正化の引き金となりつつも、SOEの資金調達には逆風となるだろう。
しかし、金融市場の安定性を維持することは中国の最優先事項の1つである。したがって、中国では企業破綻による社会不安や金融市場の不安定化のリスクを政策当局が慎重にコントロールしていく展開が見込まれる。
中国政策当局は信用破綻の連鎖や金融市場の機能不全を回避する意欲もあるし、その能力もある。したがってSOE債券のデフォルトが中国経済にとって大きなシステミック・リスクの前兆であるとは思えない。現在の市場の流動性は十分であり、マクロ経済全体の債務水準の削減に取り組んでいる政府のトップダウンのコミュニケーションは、投資家の過度な懸念が積み上がることを効果的に防いでいる。
このような流れを踏まえると、きちんと債務を管理する能力がある企業が有利であるという見通しにたどり着く。中国政策当局がSOEの破綻を許容すればするほど、資本のより合理的な分配が促進され、民間企業・国営企業ともに債券の利回りが信用力を適切に反映するようになっていく。
投資家にとっての結論はシンプルである。投資対象を慎重に選別し、リスクを意識しつつも、中国のクレジット債券への投資自体は積極的に続けるべきだということだ。発行体の資金調達環境が悪化してもなお中国政策当局がSOEのデフォルトを認めていることは、裏をかえせば景気回復への強い自信があるということを示す。今後数カ月・数年の間に中国の信用市場がより健全で高い収益機会のある市場になることを予感させるものであるとABは考えている。
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