2021年が始まって安堵のため息をついている。コロナワクチンの接種が始まり、争点となっていた米国の大統領選挙が終わり、5年分に及ぶ英国の欧州連合離脱(ブレグジット)交渉も終了した。世界は最悪期を脱したかのようにも見える。

しかし、事態はまだすべてがクリアになった訳ではない。コロナワクチンの接種は、感染性の高い変異体ウイルスの広がりも抑えなければならない。また、ほとんどの国がすぐに通常どおりのビジネス環境に戻ることもない。経済が回復を続けるためには、持続的な金融政策及び財政政策の支援が必要だ(以前の記事『2021年の展望: 世界経済の回復がもたらすものは何か?』ご参照)。そして、1兆米ドル近くの枠組みが議論される米国の2回目の財政支援策については、遅すぎないか、あるいは十分な額が合意できるかという懸念もある(以前の記事『今後の米国経済ロードマップ』ご参照)。

債券投資家にとっては、これまでと同様にマイナス水準を含む低金利、インカム資産への強い需要、イベントに振り回される市場のボラティリティ、がポイントとなる。ここでは、2021年の投資環境をどのように乗り切っていくのかについて、アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)の見解を紹介したい。

低金利環境下の債券投資

ワクチンの登場により新型コロナウイルスの影響は長期的には後退していくのであれば、世界経済の成長は2021年後半には大きく回復する可能性が高くなる。しかし、足元の景気回復は依然としてぜい弱であり、財政・金融の両面から継続的な支援が不可欠だ。

このような環境下で、中央銀行は金利の引き上げを考えない。したがって、当面の間、世界のほとんどの地域で金利が非常に低い状態が続く可能性が高い。米連邦準備制度理事会は、少なくとも2023年まではゼロに近い水準に政策金利を維持すると2020年9月に示唆している。

一方で、新型コロナウイルス感染状況、ワクチン接種が行き渡るスピードやその進捗、経済活動再開のタイミングなどを考えると、ボラティリティは依然として高まりやすい環境と言える。

以上を踏まえると、債券ポートフォリオは、低利回り環境でのインカム確保と価格変化によるリターンを追求しながら、同時にポートフォリオのダウンサイド・リスクを制限する役割を果たす必要がありそうだ。ABでは、債券市場は依然として投資家が両方の目的を達成するのを手助けすることができると考えている。

一部の市場関係者は、マイナス金利の環境においては国債のリターンが低くなるため、リスク・オフ時の資産保全効果が妨げられていると指摘している。確かに、利回りが低いために国債のリターンが過去に比べて鈍化するとの分析は妥当だ。30年間ほどのタイムスパンで見た金利低下トレンドは下限にすでに到達しており、過去10年間の米国国債のリターンは過去に比べると穏やかなものにとどまっている。

しかし、低金利にあることと債券の資産保全効果を結びつける議論は、2つの理由から的外れであるとABは考える。

第一に、日本のように非常に低い金利で推移してきた市場の経験から考えると、低金利が必ずしも低リターンになるわけではないことが示唆されている。過去12年間のうち11年間、日本の10年物国債の利回りは1%未満であった。対照的に、同期間の年間リターンが当初の利回り水準と一致することはほとんどなく、それどころか、時間の経過とともに長期債券と短期債券の金利水準に差があることでロールダウン効果を享受して価格が上昇し、リターンは利回りの平均値の2倍以上になったのである。現在の米国国債のイールドカーブは日本の例と同様に長期金利と短期金利に差があり、5年債と10年債の利回りの差は、1962年以降の平均的な利回り差で見ても高い水準になっている。

第二に、2020年には3月に世界的なパンデミックが発生しリスク資産が劇的に売られ、9月にも株式市場が調整を見せたが、国債は株式市場のボラティリティ上昇局面で値上がりした数少ない資産の1つであった(以前の記事『US Treasuries, German Bunds Still Anchor to Windward』(英語)ご参照)。

株式市場が下落した日には、10年物国債利回りが 1%を大きく下回る水準にあったにもかかわらず、米国国債と S&P 500指数の6カ月間の相関関係は逆相関を保った(-0.4を下回る水準)。また、欧州では、3月と9月に株式市場が下落した際にドイツ国債利回りはマイナス圏にあったが、売られている間は相関関係はマイナスとなり、つまり国債保有による資産保全効果が十分に保たれた。

言い換えれば、市場下落に対する防御が最も必要とされる局面で、国債はより防御的な値動きをした。このことは、市場のボラティリティが高まっている時期には、ポートフォリオの資産保全機能として国債への資産配分が有効であることを示している。

正しいリスクのバランスを取る

一方で、投資家のインカムとリターンに対するニーズは、かつてないほど高いものとなっている。債券への資産配分の効果を最大限に活用したいと考えている投資家は、単一のポートフォリオの中で、国債へのエクスポージャーだけではなく、より利回りの高い債券セクターとの多様な組み合わせを検討するのも一案だ。

伝統的なベンチマーク対比のポートフォリオとは異なってくる部分となるが、金利とクレジットのバランスの取れた債券ポートフォリオは、資産保全とインカム獲得を同時に達成することを目指す。具体的には、セクター間の異なる相関関係を利用しながら、相対的に割安な債券の組み入れ機会を活用する。

これは、米国国債と株式の関係と同様に、リスク・オフの環境下ではこの金利とクレジットという2つのグループは負の相関関係を示すからだ。言い換えれば、ハイイールド債券などの企業などのリターンを求める債券グループが下落しているときには、国債などの安全性を求める債券グループが上昇する傾向がある。

さらに、ポートフォリオでこの安全性を求める債券とリターンを求める債券の組み入れの割合を市況の変化に応じてどちらかに傾けることが考えられる。そうすることで、アクティブ運用は、市場のさまざまな変化に伴う投資機会を活用することができる。

例えば、パンデミックが始まって以来、リスク資産の回復状況には差がある。アクティブ運用なら、回復が出遅れているセクターにポジションを振り向けることができる。ボラティリティの急上昇は、割安な価格の債券を機敏に組み入れる機会を生み出す可能性がある。

インカムとリターン・ポテンシャルがある債券セクター

足元で魅力的な利回りと信用力対比の投資妙味の両方を兼ね備えると考えられる債券を紹介したい。

まずは新興国市場の債券だ。特にハイイールドのソブリン債に注目している。米ドル安、財政刺激策、魅力的なバリュエーション、低金利環境下での投資家のインカム需要にも支えられると予想している。

米国では証券化商品に注目している。具体的には、クレジット・リスク・トランスファー証券(CRT証券または信用リスク移転証券、米国政府系企業が発行する住宅ローン担保証券)や商業用不動産担保証券(CMBS)である。特にCRT証券は、米国の住宅市場が堅調に推移していることに着目している。証券化商品は、社債よりも健全な利回りが得られやすいことに加え、他の債券セクターや他の資産クラスとの相関性が低い点も魅力だ。

欧州のクレジット投資も魅力的だ。銀行の劣後債に注目しており、投資適格の銀行が発行する劣後債は、優先劣後構造で低位に位置するため、ハイイールド債に匹敵する利回りを提供している(以前の記事『Why European Fixed Income Has Become More Attractive』(英語)ご参照)。発行銀行が破綻した場合に最初に影響を受ける欧州銀行のAT1債券の利回りは、欧州・米国のハイイールド債の利回りを優に上回る。

世界のハイイールド社債。パンデミックのパニックの後にスプレッドが大幅に縮小してしまった。しかし、ハイイールド市場の信用の質も向上している。パンデミックの当初は投資適格だったがその後格下げされた「フォーリン・エンジェル」債がハイイールド市場に加わる一方、財務ぜい弱な企業のデフォルト(による債券市場からの退出)が進んだ。信用力が向上したことでスプレッドの縮小余地が生まれており、魅力的な相対的リターンの可能性を秘めている。

米国の投資適格社債。投資家が利回りを求める中で同セクターには旺盛な需要が寄せられているにもかかわらず、2020年終盤は発行ペースが鈍化しており、2021年の発行ペースも大幅に鈍化することが予想される。このため需給面の支援を受けやすいセクターだ。一方で、銘柄間の信用力のばらつきは拡大しており、銘柄選択による効果が望める可能性がある。このような環境下では、ファンダメンタルズの分析に則った選択が特に重要である。

アクティブに運用し、投資先を厳選することが重要

今日のように利回りが低く不確実性が高まっている時代は、まだすぐに終わる段階にはない。しかし、地域や債券セクターを越えて選択的に投資を行い、金利に敏感な債券と信用力に敏感な債券を適切なバランスで保有することは、世界経済の回復に伴い、ボラティリティを低減し、リターンの可能性を高めるのに役立つとABでは考えている。

ポジションを動的に捉える前提にたって債券ポートフォリオを積極的に管理する投資家は、今日の相場の荒波を乗り切る準備ができているものと確信している。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。オリジナルの英語版はこちら

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