世界金融危機が幕を閉じて以降、米国の一戸建て住宅市場は堅調な動きをたどってきたが、新型コロナウイルスのパンデミックは最近のトレンドを加速させた。住宅供給が抑制される中で需要が膨らみ、住宅価格の上昇に弾みがついている。活況に沸いた過去の場面では、金利上昇で消費者の住宅取得能力が低下した結果、住宅価格の上昇ペースが鈍化、または下げに転じてきた。今回はこれまでと違うのだろうか?
 

住宅供給が不足している一方で・・・

パンデミックに見舞われる前から、一戸建て住宅の供給は世界金融危機以前の水準を一度も回復できずにいた。2008年の住宅市場の冷え込みで職を失った建設労働者は他の仕事を見つけた。住宅市場の崩壊で打撃を受けた住宅建設業者は、底堅い集合住宅セクターに焦点をシフトした。過去4年間にわたる移民政策の変更も建設労働市場のひっ迫を招く一因となり、コストが上昇している。世界金融危機後の予算削減措置を受けた地方政府による人員削減の結果、建設許可を担当する職員や建築物の検査官が少なくなったことも、供給サイドのボトルネックにつながった。
 
そして、新型コロナウイルスが住宅不足に拍車を掛けた。パンデミック発生当初は消費者の住宅購入意欲が急激に落ち込んだが、その後は急速に持ち直した。一方、パンデミック以前からあった供給問題は悪化した。持ち家の売却を検討していた住宅保有者は売りに出すのを先送りし、市場に出回る中古住宅が減少した。新築住宅の建設も供給不足を埋め合わせることはできなかった(図表1)。
 
パンデミックに伴う住宅購入熱で売り物件が枯渇.png
 
パンデミック期間に講じられた住宅ローン返済猶予措置や賃貸支援策も、差し押さえの抑止につながったことから売りに出される住宅が減少し、供給を抑える要因となった。その影響は持続すると思われる。多くの住宅保有者がこうしたプログラムを利用してローンの借り換えや借り入れを行ったため、プログラムが終了しても市場に出回る住宅が過剰になるとは考えにくい。
 

・・・住宅需要が高まっている

過去の住宅ブームの際は、問題ある融資手法や過剰供給が需要を促進した。それとは対照的に、今回は旺盛な住宅需要が続くとみられる正当な理由が3つある。
 
第一に、世代交代が一戸建て住宅の需要を押し上げている。つまり、ベビーブーマー世代よりも人口の多いミレニアル世代が住宅購入の適齢期に入ってきたことが需要をけん引している。
 
そして、パンデミックが起こったことで、多くの人々にとって都市に住む魅力が薄れた。より広いスペースが必要になった人もいれば、低金利のおかげで思っていたより早く住宅を購入できるようになった人もいる。
 
他の要因がなければ、こうした世代交代は緩やかで着実な需要増につながるが、パンデミックによって住宅在庫が抑えられた結果、住宅価格を押し上げる圧力が大きく高まっている。
 
第二に、何カ月もロックダウンや自宅での仕事を強いられた結果、多くの米国国民は住環境を変えたいと感じるようになり、密集した地域や集合住宅から抜け出そうとしている。UBSエビデンス・ラボが実施した調査では、回答者の45%がパンデミックが始まってから住宅保有への関心が高まったと答えた。
 
人口密度が低い地域では、スペースが十分で、広い庭があり、プライバシーを守ることのできる一戸建て住宅が記録的なペースで売れている。売りに出されてから2週間以内に売却できた住宅は平均で60%近くに達した(図表2)。 
 
住宅は熱気を帯びたペースで売れている.png
 
この結果、人口密度の最も高い都市では住宅価格の上昇率が前年比2.4%にとどまったものの、人口密度の低い地域では10%を上回った。
 
最後に、機関投資家が一戸建て住宅の新たな買い手として登場し、住宅価格を押し上げている。一部の上場企業やヘッジファンドはテクノロジーを活用し、全米で多数の一戸建て住宅を購入して賃貸用に管理している。こうした投資家は永続的に米国の住宅需要を支える役割を果たしそうだ。
 

住宅価格は急には下がらない

理論的には、住宅価格の上昇に金利上昇が重なれば消費者の住宅取得能力が低下し、住宅市場の低迷につながる可能性がある。今回はそうした動きが起こらないと考える理由を挙げてみたい。
 
低金利は消費者の住宅取得能力を支えてきた。基準金利となる米国の10年国債利回りは2021年1-3月期に約0.90%から1.74%まで上昇したものの、住宅ローン金利は引き続き過去最低水準で推移している。世界中の中央銀行当局者は、金利が今後もかなり長期にわたって低水準にとどまることを示唆している。たとえ金利が0.5~1%上昇したとしても、アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は住宅取得能力指数が2009年以降のレンジを外れることはないと考えている(図表3)。
 
低金利が消費者の住宅取得能力を支えている.png
 
消費者は住宅を購入する資金的な余裕もある。家計の貯蓄率はパンデミック期間に急上昇し、住宅購入を検討している人々の所得はここ数年、平均所得を上回る伸びを示している。その結果、住宅ローンの引き受け基準が著しく厳しくなる中でも、信用力のある消費者は住宅購入ブームに加わることが可能になっている。
 
しかし、住宅価格の急速な上昇が続いているため、住宅取得能力を取り巻く環境が全面的に明るいわけではない。いずれ住宅価格の上昇に雇用や経済の成長が追いついてこなくなれば、現在の価格上昇ペースを維持するのは難しくなるだろう。
 

住宅市場の将来を左右するカギ

ABはパンデミック以降も堅調な住宅需要が続くと考えている。2022年にかけては経済や人口動態の動きが一戸建て住宅の価格を左右する見込みだが、上昇ペースは現在の前年比11.2%から鈍化すると思われる。短期的には、住宅価格の上昇率は3%~6%で推移する可能性が高いと見ている。
 
いずれは、パンデミックに起因する住宅市場への圧力は和らぐだろうが、需要を押し上げる他の要因や相対的に高い住宅取得能力が、市場の活況を維持する役割を果たしそうだ。蓄積された需要、自宅でも仕事ができる労働環境の柔軟性拡大、慎重な住宅建設業者、比較的低い住宅ローン金利、機関投資家の買い手、住宅を求めるミレニアム世代などが、当面は住宅価格を支えることになるだろう。それに加え、パンデミック期間に住宅ローンの引き受け基準がかなり厳しくなったものの、より正常に近い水準に多少戻っていることも、需要を支える要因となろう。
 
投資家は信用リスク移転(CRT)証券などへの投資を通じて、住宅市場の活況が続くとの見通しを追い風にすることができるだろう(以前の記事『CRT証券:いま進むべき道』ご参照)。住宅市場は過熱したり冷え込んだりすることがあるが、これらの異例の要因が重なり合うことで、市場のバランスは維持されるとABでは考えている。
 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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