最近、中国のクレジット市場を揺るがしたボラティリティの多くは、中国政府の介入によりもたらされたものだ。こうした規制リスクは投資家にとって懸念されるものだが、ファンダメンタル分析により、中国の規制当局が企業やセクターをどのように考えているかについての指針が読み取れる。
 
中国の政策課題は、経済と資本市場の海外開放を目指す一方で、社会の安定を維持するという微妙な釣り合いを保っていくことだ。この最初の政策目標の中には、企業の信用リスクに見合った価格形成を実現して海外投資家が他の市場と同様の安心感をもって中国信用市場へ投資することができるよう促すことも含まれ、その手段としてより多くの企業に債務不履行を認める可能性がある。
 
また、社会の安定を目指す政策目標に鑑みると、政府が社会的目的に反するようなビジネス慣行となっていた教育やハイテク分野の規制強化を実施した理由が明らかになる(以前の記事『中国の規制強化がクレジット市場に及ぼす影響とは?』ご参照)。しかし、この動きにより、中国株、オフショア人民元、中国クレジット市場からの劇的な逃避が引き起こされた。
 
その結果、中国のクレジットに投資する多くの投資家にとって、政府の介入がもたらすリスクの影響をどのように評価すべきかが重要な問題となった。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は、不良資産管理会社「華融」と不動産開発会社「中国恒大集団(エバーグランデ・グループ)」の2つのケースについてファンダメンタル分析を施した結果、この点についていくつかの知見を得ることができた。
 

「システム的に重要な企業」とは?

華融は、半分以上の株式を公的機関が保有する国有企業であり、1兆7,000億人民元(約2,620億米ドル)の資産を有するが、2021年4月に2020年の業績を発表することができず債券投資家にとって悩みの種になった。政府の市場開放の目的に鑑みれば同社がデフォルトに至る可能性があるとの投資家の不安により、同社債券の売りはさらに悪化することになる。
 
ABは同社がシステム的に重要な企業に該当すると分析しており、よってデフォルトは起こらないと判断している。
 
どの企業がシステム上重要なのかを理解することは、中国のクレジット市場のリスクを読み解く上での重要な鍵だ。一般的には中国政府は国有企業を支援すると考えられているが、政府がシステム上重要な企業やセクターのリストを公表しているわけではない。したがって、ファンダメンタル分析によってこの点を読み解いていく。
 
例えば、銀行セクターでは、どの企業がシステム上重要なのかを判断するのは比較的容易だ。規模の大きな3つのセクター、つまり政策銀行3行、ティア1の商業銀行(国有銀行6行)、ティア2の商業銀行(政府が資本参加する銀行12行)を合計すると、銀行システムのバランスシートの60%から70%を占めているからだ。
 
規模だけを見ればこれらの銀行はシステム上重要であるが、他の要因も加味する。例えば、国有の銀行であること、インターバンク市場での借り入れなど金融システムとの相互関係、社会の安定にとっての銀行業務の重要性、国際資本市場へのアクセスなどである。
 
さらに、中国の国家的課題にとっての当該銀行が果たす役割を理解することも重要である。一部の投資家はオフショア債券市場での不良資産管理会社の社債がデフォルトするか懸念しているが、これが実際に発生すれば中国発行体が外国資本へアクセスすることが今後は困難になる可能性がある。これは、人民元の国際化という中国政府の目標に反するものとなる。
 
華融をはじめとする不良資産管理会社は、ここで列挙した5つの基準のうち4つを満たしている(図表1)。
 
不良資産管理会社はシステム的に重要な項目を多く満たしている.png
 
不良資産管理会社は、社会の安定には重要とは言えないが、中国の国家的な課題を推進する役割を担っている。彼らの役割は、銀行や企業のバランスシートから不良債権及び不良資産を取り除いて売却することだ。こうした機能を通じて中国の金融システムの健全性は保たれており、2020年に中国の銀行から切り離された不良債権のうち華融が取り扱った割合は40%にも及ぶ。
 
このことから、中国社会の安定を保つ上で、やはり華融は破綻させるには重要すぎる存在とABは考える。
 

不動産会社よりも不動産部門が重要

次にエバーグランデ・グループに話を移そう。同社は新興国で最大の不動産開発会社であるとともに、5,700億人民元(約880億米ドル)という世界で最も負債額の多い企業の1つともなっている。しかし、規模が大きいことが必ずしもシステム上重要であることを意味するものではない。同社のバランスシートの大きさにもかかわらず、中国の住宅市場における同社のシェアはわずか4%にすぎない。
 
図表2が示すように、華融を分析するにあたり確認したシステム上重要な企業の特徴をエバーグランデ・グループは全く持ち合わせていない。
 
エバーグランデ・グループはシステム上重要とは言い切れない.png
 
中国の他の民営不動産会社にも同様の結論が当てはまる。
 
ただし、エバーグランデ・グループや同業の会社もシステム上重要ではないが、中国の不動産セクター全体は重要であるといえる。不動産開発会社と、それに依存する重機や建築資材のサプライヤーなどのセクターの負債総額は101兆人民元に上り、中国の金融システムの35%、国内総生産(GDP)の100%に相当するためだ。
 
したがって、個々の不動産開発会社のデフォルトや破綻は許容されるかもしれないが、中国当局は不動産セクターそのものが危機に陥るリスクを低減するような措置を取る可能性が高いと考えられる。ABでは、不動産セクターの状況が、軽度のストレス(デフォルト率4%)から中程度のストレス(同10%)に移行し始めたときに、政府は介入を始めると考えている。
 
ABがストレステスト分析を行って以来、オフショア債券市場におけるハイイールドの中国不動産開発会社のデフォルト率はすでに4%にまで上昇している。ここに、アクティブな投資家にとっての収益獲得機会が生じているかもしれない。
 

備えあれば憂いなし

もちろん、政府が介入して価格が回復することを期待し、不動産開発会社の債券価格の下落を利用しようとすることは、リスクの高い戦略だ。なぜなら、上述のとおり、中国の不動産開発会社の中からデフォルトや破綻が発生する可能性も高いからだ。したがって、投資家は、当局の動きを読み解くだけではなく、個々の投資対象企業の信用力を厳密に調査・分析する必要がある。
 
投資において幸運を呼び寄せるのに必要なのは勇気ではなく準備だ。アクティブな投資アプローチと健全なファンダメンタル分析こそが、中国のクレジット市場での投資を成功させる鍵だとABは考えている。
 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
オリジナルの英語版はこちら

本文中の見解はリサーチ、投資助言、売買推奨ではなく、必ずしもアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)ポートフォリオ運用チームの見解とは限りません。本文中で言及した資産クラスに関する過去の実績や分析は将来の成果等を示唆・保証するものではありません。

当資料は、2021年8月23日現在の情報を基にアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーが作成したものをアライアンス・バーンスタイン株式会社が翻訳した資料であり、いかなる場合も当資料に記載されている情報は、投資助言としてみなされません。当資料は信用できると判断した情報をもとに作成しておりますが、その正確性、完全性を保証するものではありません。当資料に掲載されている予測、見通し、見解のいずれも実現される保証はありません。また当資料の記載内容、データ等は作成時点のものであり、今後予告なしに変更することがあります。当資料で使用している指数等に係る著作権等の知的財産権、その他一切の権利は、当該指数等の開発元または公表元に帰属します。当資料中の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。アライアンス・バーンスタイン及びABはアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーとその傘下の関連会社を含みます。アライアンス・バーンスタイン株式会社は、ABの日本拠点です。

当資料についてのご意見、コメント、お問い合せ等はjpmarcom@editalliancebernsteinまでお寄せください。

「債券」カテゴリーの最新記事

「債券」カテゴリーでよく読まれている記事

「債券」カテゴリー 一覧へ

アライアンス・バーンスタインの運用サービス

アライアンス・バーンスタイン株式会社

金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第303号
https://www.alliancebernstein.co.jp/

加入協会
一般社団法人投資信託協会
一般社団法人日本投資顧問業協会
日本証券業協会
一般社団法人第二種金融商品取引業協会

当資料についての重要情報

当資料は、投資判断のご参考となる情報提供を目的としており勧誘を目的としたものではありません。特定の投資信託の取得をご希望の場合には、販売会社において投資信託説明書(交付目論見書)をお渡ししますので、必ず詳細をご確認のうえ、投資に関する最終決定はご自身で判断なさるようお願いします。以下の内容は、投資信託をお申込みされる際に、投資家の皆様に、ご確認いただきたい事項としてお知らせするものです。

投資信託のリスクについて

アライアンス・バーンスタイン株式会社の設定・運用する投資信託は、株式・債券等の値動きのある金融商品等に投資します(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)ので、基準価額は変動し、投資元本を割り込むことがあります。したがって、元金が保証されているものではありません。投資信託の運用による損益は、全て投資者の皆様に帰属します。投資信託は預貯金と異なります。リスクの要因については、各投資信託が投資する金融商品等により異なりますので、お申込みにあたっては、各投資信託の投資信託説明書(交付目論見書)、契約締結前交付書面等をご覧ください。

お客様にご負担いただく費用

投資信託のご購入時や運用期間中には以下の費用がかかります

  • 申込時に直接ご負担いただく費用…申込手数料 上限3.3%(税抜3.0%)です。
  • 換金時に直接ご負担いただく費用…信託財産留保金 上限0.5%です。
  • 保有期間に間接的にご負担いただく費用…信託報酬 上限2.068%(税抜1.880%)です。

その他費用:上記以外に保有期間に応じてご負担いただく費用があります。投資信託説明書(交付目論見書)、契約締結前交付書面等でご確認ください。

上記に記載しているリスクや費用項目につきましては、一般的な投資信託を想定しております。費用の料率につきましては、アライアンス・バーンスタイン株式会社が運用する全ての投資信託のうち、徴収するそれぞれの費用における最高の料率を記載しております。

ご注意

アライアンス・バーンスタイン株式会社の運用戦略や商品は、値動きのある金融商品等を投資対象として運用を行いますので、運用ポートフォリオの運用実績は、組入れられた金融商品等の値動きの変化による影響を受けます。また、金融商品取引業者等と取引を行うため、その業務または財産の状況の変化による影響も受けます。デリバティブ取引を行う場合は、これらの影響により保証金を超過する損失が発生する可能性があります。資産の価値の減少を含むリスクはお客様に帰属します。したがって、元金および利回りのいずれも保証されているものではありません。運用戦略や商品によって投資対象資産の種類や投資制限、取引市場、投資対象国等が異なることから、リスクの内容や性質が異なります。また、ご投資に伴う運用報酬や保有期間中に間接的にご負担いただく費用、その他費用等及びその合計額も異なりますので、その金額をあらかじめ表示することができません。上記の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。