米国の長期金利が数十年ぶりに上昇トレンドに転じそうな情勢だ(2022年9月末現在)(図表1)。特に、足元は金利上昇のペースが早く、米国では政策金利が0.75%刻みという新興国並みのペースの利上げが連続し、長期年限(10年国債)の金利水準も、前年の同時期の倍以上(2021年8月末の1.31%から2022年8月末現在の3.19%)の水準まで上昇した。
 
米国の長期金利は上昇トレンドに転じる勢い.png
 
 
相場の調整が起こることを英語でコレクション(correction)というが、この言葉はcorrect(間違いを正す)とから派生しており、そこには単なる下落というよりも、本来あるべき価格水準への調整といったニュアンスがある。つまり、今般の金利上昇は混乱の原因であったと同時に、経済・社会構造の変化に伴う結果として発生したものではないのか、と考えることができる。本稿では、金利水準の調整要因について考察し、資産運用における留意点を見出したい。 
 

国家の信用力は十分か?

金利上昇の直接的な原因としては、米連邦準備制度理事会(FRB)が急激な利上げペースを展開する理由として度々言及するとおり、インフレが起こっているからということになる。しかし、金利上昇がこれだけ進むと、これがインフレひとつだけの対策では済まなくなることは、数々の新興国の事例が示している。
 
物価の他にも金利水準に影響を及ぼす要素としてクレジット(信用力)がある。国債であろうとも、クレジットが悪化すれば債務返済に問題が生じる可能性を織り込み、金利は上昇する。そして、多くの国の財政は、コロナ対策に疲れ、今後は安全保障のためのコストも上昇するのが必至だ。金利の上昇そのものにより、今後は国債の利払いや借り換えの負担が増すという負のスパイラルのリスクもある。当面は各国政府のクレジットのリスクが高まる方向にある(図表2)。
 

 
各国政府のクレジット・リスクが上昇.png
 
 

すると、長期金利が急上昇していることと、世界中の政府債務が増大していることは関係があるのか、という疑問が出てくる。これは、国家の信用が低下しているのかという厳しい問いであり、「悪い金利上昇」と言っていいだろう。
 

国家のクレジットの揺らぎは顕在化しているか?

アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では国家の広義の信用力の変化をリアルタイムで捉えるため、各国の財務健全度について独自の分析を行っている。2020年以降は、パンデミック対策で多くの国のクレジットが悪化したが、その後は景気急回復に伴う税収増でクレジットは回復傾向にあった。しかし、足元は国・地域により優勝劣敗の傾向が強まっており、欧州地域や新興国ではクレジット悪化に転じる国が増えている。現在進行形の利上げによる経済活動へのブレーキ効果が心配されるが、景気減速が顕在化する前にして、既に脱落組が出始めているのだ。
 
現在、米国やドイツはトリプルAの格付けを維持しており、日本が最後に格下げされたのはコロナ危機前の 2015年だ。日本を含む主要先進国の金利上昇が「悪い金利」のサイクルに陥っている状況にはまだない。しかし、2022年9月には、G7の一角である英国で政府が減税政策を打ち出すや否や、インフレや国家財政への懸念により、強烈な国債売りが市場を震撼させた。今後、「悪い金利上昇」の回避は重要性を増していきそうだ。
 

新しい債券分析

安全保障の観点から外貨準備金の通貨分散や、決済通貨の非米ドル化を図る動きが出ている。意外に思うかもしれないが、システムは相互の接続を減らすことで全体の頑健性が高まるという性質があり、世界全体で見ると金融システムの切り離しは合理的な対応といえる。つまり、不安定な時代に突入することで、市場の分断が今後も進み、各国市場に固有の特徴がより重要になる可能性が高い。
 
国債金利に関連しそうな特徴としては、国内投資家の厚みに代表される国債需要の安定や、対外収支に代表されるフローなどが、注目に値する。また、反グローバル化が進むと海外の労働市場へのアクセスが減るため、先進国では労働力減少という課題が出てくる可能性がある。これらはすべて、2000年代以前はポピュラーな分析ポイントであった。
 

市場は元に戻るのか?

グローバル化の中では、多くの経済活動や金融市場はつながっていた。この均一なプラットフォームでは、効率的市場を前提とする分析によって割安度を分析しつつ、分散度を高めるアプローチが求められてきた。今後、本格的に反グローバル化に走り出す場合、地域間、市場間の相関が低下する可能性がある。つまり、反グローバル化の方向に抗い、各市場の特性の違いに気を払いつつ国際投資を続けることそのものが、分散効果を達成することになるのではないか。投資家は分散効果の享受のため幅広い投資対象を分析し選択する必要があり、反グローバルの世界でそれは簡単ではないが、得られる効果もまた大きくなるだろう。
 

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