欧州の保険会社の最高投資責任者(CIO)に最近行った取材では、期待インフレから流動性に関する考察まで、資産配分に関連したいくつかのトピックが話題にのぼった。

2024年初めの数カ月間、アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は欧州各国の多くの保険会社のCIOに取材する機会を得た。そこでは、保険会社の投資見通しや、投資戦略の策定にあたって彼らが直面している最大の課題に関する情報交換を含めて、さまざまなトピックを議論した。そうした議論の覚えておくべき重要なポイント4つをこのレポートで共有したい。

インフレ懸念を資産配分に織り込んでいない場合もある 

インフレ率については、各国・地域の中央銀行が現在掲げている目標より高い状況が、政策に従って中長期間続くだろうというABの見解に、多くの生命保険会社及び損害保険会社が概して同意した。ただし、そうした見通しを資産配分の決定にどのように織り込むかについては、共通する見解はなかった。また、生命保険会社からは、資産のインフレ感応度に関する考察や感応度を数値化した説明がほとんどなかったが、大半の債務がインフレに連動していないため、考察や説明がないことはある程度理解できる。

損害保険会社との間では、保険金請求のインフレがこれまでに消費者物価指数(CPI)の上昇ペースをどの程度上回り、過去2年間直面してきた課題を悪化させてきたかについて議論した。そうした現実を資産配分に織り込むには、保険金請求のインフレに敏感な資産を特定するという難しい作業が必要になり、しかもそれを短期間に行わなければならない。均衡インフレ率に対する見方が変わり、それが資産配分にかなり大きな影響をおよぼす可能性がある点が、戦略的な資産配分による対応を複雑にしている別のファクターであり、それはガバナンスやキャリア・リスクのトピックにも関連してくる。 

エクスポージャーを数値化するのは難しいが、インフレを長期的にヘッジするのは比較的簡単である。株式や不動産など、インフレと暗黙の連動性を持つ資産を少なくとも長期的に保有したいという意見を中心に、さまざまなアプローチが聞かれたのはそのためである。しかし、それらへの資産配分比率を決めるための確固としたアプローチは議論のなかでは浮上しなかった。保険会社はほとんどの場合、保険料の変動を基本的なメカニズムとして使用し、競争力を維持できるだろうと考えながらインフレに対応しているのだ。

非流動性プレミアムのみならず、他の理由からも、プライベート市場へのエクスポージャーが増加する見通し

ABが取材した保険会社の大部分にとって、プライベート市場へのエクスポージャーの増加は、個々の会社のエクスポージャーが現在どの程度なのかにかかわらず、最優先事項のうちの1つだった。2~3年前には見られなかった様々な理由により、そうしたエクスポージャーが増加していると聞けたことは心強かった。

また、ABが取材した保険会社は概して、リスク源泉を分散させるアプローチを用いていると言及した。パブリック債券市場の典型的な企業リスクをうまく相殺するアプローチとしては、インフラへの融資、住宅ローン、プライベート・エクイティ・ファンドへの投資のすべてが引き合いに出された。環境・社会・ガバナンス(ESG)目標についても言及があった。再生可能エネルギーへのエクスポージャーや(社会的弱者や定年退職者向けの住宅といった)社会の利益になる投資が、パブリック市場よりプライベート市場が提供する機会の方が多い分野として認識されていた。以上のような見解は、投資ユニバースを拡大し、リターンや分散化度合いを高める可能性を制限しないアプローチとして、プライベート市場へのエクスポージャーを増やすという一般的な意見と合致するものである。

多くの損害保険会社は、プライベート市場へのエクスポージャーを現在の比較的低い水準から増やしたいと言及した。目標とする資産配分比率には5%から10%までの幅があったほか、アプローチに関する意見もさまざまだった。そうした資産配分比率であれば1つのマンデートでいくつかの分野にアクセスできるマルチアセット・アプローチを正当化できるという言及もあった。ただし、マルチアセット・アプローチを実施するには、保険会社のバランスシートに見合う複数の分野で、幅広いプラットフォームがあり、それらの分野で強みを有する運用機関を見つけなければならない。また、自身が保有できる資産エクスポージャーの範囲について、保険会社が深く理解する必要も出てくる。以上のような理由から、多くの保険会社は依然として資産クラスごとのアプローチを選好していた。

ソルベンシーは厳しい制約ではないが、会計報告を考慮する動きが浮上

ABが取材した保険会社の一部によれば、ソルベンシーの効率性を測る尺度も資産配分を主導するファクターの1つである。ただし、保険会社は全体として見れば、ソルベンシー予算をそこまで厳しい制約とは考えていなかった。資産配分の決定を主導しているのは、ソルベンシー予算を削減するという目的でも、投入資金を増やすことなく所与の投資でさらなる利回りにアクセスしたいという考えでもなかった。

しかし、会計報告を考慮する動きは広まっている。会計報告を重要なファクターとして考慮して投資判断を行っているのは、ABが取材した保険会社のごく一部のみだったが、大部分の会社が資産配分プロセスのなかで、国際会計基準(IFRS)第9号及び第17号がおよぼす影響をこれまでより重視する取り組みを行っていた。そうした取り組みでは、おそらく財務チームと投資チームが頻繁にやり取りしているのだろう。

会計報告を資産配分変更の重要なファクターとしている会社からは、損益計算書の変動を抑制する手段として、一部の株式投資からハイイールド商品へのシフトが引き合いに出された。未実現の損益を損益計算書を通して生じさせるのではなく、バランスシート上にとどめることができるためである。プライベート・エクイティが創出しうるリターンの中央値が魅力的ではない(ただし、中央値の前後にもリターンは広く分布する)点も、保険会社は認識していたが、時価の変動が小さくなる点が会計報告の観点では魅力だとも言及した。しかし、時価の変動が小さくなるケースを、真の投資のボラティリティが低いケースと区別することが重要である。

流動性はあるかないかの2元的ではなく、さまざまな状態がある

ABは取材を通じて、保険会社の流動性ニーズが金利上昇に伴って困難に見舞われたかどうか、理解を深めたいと考えていた。しかし、保険契約の失効が増えたことや新規契約数が減ったことに伴う圧力があった可能性はあるが、保険会社はこの領域を非常によくカバーしていたようである。  

とはいえ、流動性は明らかにバランスシートの資産側で注目されている。保険会社は広範囲にわたる投資ユニバースを分類するのに、依然として「パブリック」と「プライベート」という市場区分を用いているが、流動性はそうした区分では定義できないという見解がある。流動性のキャパシティがプライベート市場のキャパシティに直結するはずではないと思われる。

それどころか、パブリック市場全体とプライベート市場全体の両方で、流動性にはさまざまな状態があり、ABが取材した保険会社のなかでは、そうしたさまざまな状態が大いに注目されているようである。とりわけ以前のプライベート市場では、投資家が「パブリック=流動性が高い」「プライベート=流動性が低い」という2元論的な考え方に傾斜していた。しかし、保険会社のエクスポージャーの幅が広がったため、流動性に関する微妙に異なる詳細な見方が、資産配分の決定に織り込まれるようになっている。

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