人工知能(AI)が生み出す新たな可能性は米国の巨大テクノロジー企業に限ったものではない。新興国企業の中にも、見落とされている投資機会が数多く生じている。

新興国企業は、かつては低コストの製造業で知られてきたが、AIによる世界的な技術革新に積極的に関わるべく、そして場合によってはその先頭に立つべく、重心を急速にシフトさせている。

2014年以降に新興国で設立されたテクノロジー企業は1万社以上あり、アジア、アフリカ、中南米、中東などあらゆる地域の企業がこの技術革新ブームに加わっている。そして、このブームはテクノロジーの幅広い領域に及ぶが、とりわけAIが可能にする新たな技術で新興国企業が果たす役割は着実に大きくなっている。

AIは我々の生活そのものの様式を変えるであろう。情報処理から交通システムに至るまで、人々がコミュニケーションを行ったり、働いたり、社会活動に参加したりする方法に広範囲に影響を及ぼしている。その結果、世界のAI市場は、2022年の869億米ドルから2027年には4,070億米ドルへ、年平均36%以上成長すると予測されている(注1)。アマゾン、マイクロソフト、アルファベット(Google)、メタなどはAIの隆盛に対応するため、データセンターの構築に毎年数千億米ドル投入する見通しである。2023年10–12月期の純利益が前年比769%増加した米国のエヌビディアは、圧倒的な優位性を持つAI半導体技術でこのAI革命の象徴的存在となっている。 

アジアの半導体企業にも投資機会

メディアではエヌビディア製品を始めとするAI処理用半導体が注目を独占する傾向があるが、高速メモリもAIサーバーの非常に重要な構成要素である。この市場をめぐっては、韓国のSKハイニックスとサムスン電子の2社が米国のマイクロンと覇権を争っている。SKハイニックスは現在、広帯域メモリ(HBM)と呼ばれるこの市場の最大手プレーヤーであり、需要の急増を目の当たりにしている(図表1)。そして、4月には40億米ドル近くを投じて米国に最先端工場と研究開発施設を建設すると発表している。にもかかわらず、同社は米国の一部のAI人気企業と同じようには投資家の注目を集めていない。

実は、エヌビディア自体は半導体の設計会社であってメーカーではない。そのため、他の誰かが実際にAI半導体をシリコンウエハ―にエッチングする必要があるが、現時点では台湾セミコンダクター(TSMC)が最先端の半導体委託生産(ファウンドリー)企業である。同社は2023年に693億米ドルの売上高を計上するとともに、ファウンドリー市場で60%近くのシェアを握り、アップルやエヌビディアのプロセッサー・チップのメイン・サプライヤーとなっている。

AI関連の投資機会は半導体以外にも

AIアプリケーションのユーザーは最先端のコンピューター・サーバーに依存している。AIが可能にする新規アプリケーションで必要となる膨大な計算能力を持つサーバーである。そうした強力なサーバーには、コア・プロセッサーやメモリのような半導体に加えて、多くの高性能部品が求められる。最先端の製品構造、冷却、電力供給ソリューションも必要だ。

エヌビディアのような半導体設計会社やマイクロソフトのような大手AIユーザーが市場で大きな注目を集める一方で、AIのサプライチェーンの「川中」に関わっているその他の企業は、そうした巨大米国企業より魅力的な株価バリュエーションで、この急成長市場へのエクスポージャーを得る機会を提供している。そしてその多くは、韓国や台湾などの新興国に本拠に置いている。投資家は、個別企業を入念にリサーチすることで、AIのサプライチェーンにおいて極めて重要であるほか強力な市場ポジションや価格決定力を持つテクノロジー企業を見つけることができる。

例えば、台湾企業の京元電子は、エヌビディアのような企業のサプライチェーンの後工程において試験や測定サービスなどを提供しており、これらの事業が売上高に占める割合が年々上昇している。高価なプロセッサーの製造では、最終製品が確実に動くようにするため、厳格な試験プロセスが極めて重要となっている。

同じく台湾のユニマイクロンも、AIのサプライチェーンに関わる重要なプレーヤーである。同社は、高性能チップを回路基板に結合する「味の素ビルドアップフィルム(ABF)」基板を製造している。同社の顧客にはエヌビディアやアップルが含まれ、同社の基板はコンピューター・サーバーやゲーム機のCPUやGPUに使用されている。インテルやエヌビディアなどの大手半導体企業の高機能製品にとって、ABF基板は欠かせないものとなっている。

技術革新のパワーを捉えるには

テクノロジー分野には数多くの素晴らしい企業が揃っているにもかかわらず、アジア銘柄は過去数年間に起こった世界のテクノロジー・セクターの盛り上がりからは置き去りにされてしまったようである。米国、欧州、日本の同セクターの株価バリュエーションは2019年以降著しく上昇したが、日本を除くアジアの同セクターのバリュエーションはさほど変わっていない(図表2)。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では、投資家が多くの魅力的な投資機会を見落としている可能性があると考えている。

もちろん、アジアのテクノロジー業界が近年安定性を欠いているのも事実だ。コロナ禍の最中にはテクノロジー製品の需要が急増したが、アジアのテクノロジー企業の多くはその後、生産設備の過剰や収益性の低下に悩まされた。一時急騰した株価も、2022年には再び急落した。しかし、そうした企業では現在ようやく需給バランスが通常の状態に戻りつつあり、回復局面にある。そして、AI関連インフラのブームが回復を後押ししている。

世界のAI関連銘柄は力強いモメンタムを謳歌している。しかし、ABでは、長期的に持続力のあるファンダメンタルズを重視すべきだと考えている。そうした観点から、AIのサプライチェーンに深く関わっており、AIブームの主役となっている先進国企業にとっても欠かすことのできない製品やサービスに裏打ちされた価格決定力や生産能力を持つ新興国企業がとりわけ有望であると見ている。また、新興国市場でAI関連の投資機会を選別する際には、株価が相対的に割安で潜在的リターンが過小評価されている企業を重視するバリュー指向のアプローチが特に有効であると考えている。

こうしたアプローチで優れた投資対象を発掘するためには、ファンダメンタルズ分析と定量分析を組み合わせた入念なリサーチが不可欠だ。そうしたリサーチによって世界的な技術革新を可能たらしめている割安な新興国企業を特定することで、投資家はAIのパワーを効果的に捉えることができるとABでは考えている。

(注1)MarketsandMarketsの「人工知能」( https://www.marketsandmarkets.com/mega_trends/artificial_intelligence)(外部サイト、英語)に基づきます。

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