2017年9月に安倍内閣が「人生100年時代構想会議」を設置して以来、「人生100年時代」という言葉への注目度が徐々に高まってきている。そのような中、2018年7月に金融庁が「高齢社会における金融サービスのあり方」を公表したことなども受け、金融機関を中心に「人生100年時代」に対応する商品やサービスの開発が本格化しているようだ。 その「人生100年時代」のコンセプトの中でも、特に注目されているのが『長生きリスク』ではないだろうか。「長生きがなぜリスクなのか? 長生きするのは喜ばしいことではないか」と思う人も多いかもしれないが、長生きはお金の観点から見ればリスク以外の何物でもない。なぜなら、老後の人生が長くなることによって、生きている最中に保有資産が底を尽き、それ以降は年金のみの慎ましい生活を強いられる可能性が高まるからだ。特に公的年金が老後の生活を支える力が弱まっている今こそ、「長生きリスク」を若いうちから自分事として真剣に捉え、何らかの対策を講じる必要があるだろう。
とはいうものの、この「長生きリスク」がどのようなものなのか、新しい概念であるため、イメージしづらい人も多いと思われる。そこで本稿では、簡単なシミュレーションを用いて「長生きリスク」がどのようなものなのか明らかにしたい。
長生きリスクとは?
「長生きリスク」を考える前提として、まず、退職時に3,000万円の金融資産があり、老後はここから「ゆとりある生活」をするために必要な金額である12.8万円を毎月引き出す場合を考える。この金額は、生命保険文化センターの算出した「ゆとりある老後生活費34.9万円(平成28年度)から、平成30年度の年金改定額に基づく夫婦二人の厚生年金22.1万円を差し引いたものである。ここでは、議論をシンプルにするために、投資対象資産を株式と債券のみとした上で、老後の資産配分の違いによって将来における資産残存確率がどのように変わるかを検証した。
まず下の図表1をご覧いただきたい。これは、リスク許容度がとても低く、老後に一貫して債券に100%投資する人の資産残存確率を示している。65歳で定年退職してから毎月12.8万円を引き出すと、80歳までは100%の確率で資産は残るが、90歳の資産残存確率は8.8%、100歳は0%となってしまう。つまり、80歳までは確実に生活資金が確保される一方で、90歳以上の生活資金は債券だけ(債券100%)ではほぼ賄えないことになる。
この結果を見ると、特に男性の中には、「自分は90歳までは生きないと思うから、債券だけで大丈夫」と思う人もいるかもしれない。そんな人ほど、まずは冷静になって下の図表2を見て欲しい。男性にとって90歳というと長生きしているイメージがあるかもしれないが、現時点の生命表では65歳まで生きた人の3割弱が90歳以上まで生きる可能性がある。また女性の場合には、半分以上が90歳以上まで生きるため、女性、もしくは妻のいる男性にとって、妻の90歳時点での資産残存確率が10%を下回っている状況は由々しき事態と言える。このような状態は、まさに「長生きリスク」にさらされていると言えるだろう。
リターンの高い株式で運用すればいいのか?
では、この事態から脱却するにはどうしたらよいのだろうか? 真っ先に思いつく方法は、債券よりも高いリターンが得られる株式のような資産に投資することによって資産を引き出しながらも増やしていくことで、資産寿命を延ばすことだろう。では、退職後に債券よりも高いリターンが期待できる株式に100%投資したらどうなるのだろうか?
図表3をご覧いただきたい。確かに株式であれば長期で高いリターンを得られる可能性が高まるため、90歳の資産残存確率は47.2%、100歳は29.9%となる。これだけ見ると、「株式の方が債券よりもよいではないか」と思ってしまうかもしれないが、少し待って欲しい。80歳時点での資産残存確率をみると、81%まで下がっていることにお気づきだろうか? 81%というと高い確率のようにみえるが、表現を変えれば5人に1人は資産が枯渇してしまうことを意味する。図表2を改めてみると、80歳時点の生存確率は、男性が71.1%、女性が86.3%とかなり高くなっており、5人に1人の資産が枯渇してしまう状況は、大きな危険をはらんでいると言えるだろう。なぜこのような結果になるかというと、株式はリターンが高いが、価格変動によるリスクも高いからだ。良い相場が続けばいいが、逆に悪い相場が続くと、かなり早期に資産が枯渇する可能性がある。
つまり、長生きリスクに対しては、債券のみ、株式のみでは適切に対処できないということだ。
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